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「城之内、美由希さん」
初めて知った名前を呼ぶ声は僅かに震えた。
あの絵の女性は……美紗さんによく似たあの女性は……祖父の娘さんで母のお姉さん。つまりは。
「私達の伯母さんで……」
今の今まで母にお姉さんがいるなんて知らなかった。
「一樹達のお母さん……」
一樹が兄ではなく従兄弟なんだと改めて実感した。
このメモを見る限り、伯母も本人の意思に関係なくこの屋敷で勉強をさせられていたらしい。それでどういう経緯かはわからないけど、ここから逃げ出して、恋をした。見つかって連れ戻された時には一樹達を妊娠していて、でも伯母は妊娠より先に病気に気づいて、それを隠していた。妊娠に気づいた時には後悔しても子供を育てられない状況で、二人の未来を願ってこの手紙を残したんだ。
それなのに、今あるのは伯母の願いとは正反対の現実。
一樹と城之内先輩はお互いを憎みながら城之内家の後継者争いを繰り広げているみたいだし、きっと英才教育だって受けている。この手紙にだって気づいてない。
皆勝手だと思った。祖父も、伯母も、一樹も、城之内先輩も。
祖父は伯母の想いにも気づかず、皆をこんなに追い詰めて。
伯母は自分の想いを直接告げる事もなく隠して書くだけで、勝手に病気を放置して結果的に息子二人をこんなに苦しめて。
一樹はやっている事は祖父と同じ。私の意思を無視してこんな所に閉じ込めて。
城之内先輩は跡取りになりたいと、自分の事しか考えてない。
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