五、変わりゆく日

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 手を重ねるとダンスフロアの中央まで誘われる。昔はお互い嫌々のエスコートだったのに今ではこうなんだから不思議だ。  向き合うと一瞬にして音が消えた。8年間で柔らかくなった瞳と少しだけ見つめ合って、手と手を組む。聞き慣れたワルツが始まった。  ステップを踏んでターン。堂々としていればそれなりに見えるから、とにかく背筋だけは伸ばし続けて。姫や園香先輩、蓮先輩に教わってから随分経ったけれど、あのしごかれた日々は忘れられない。大変だったけど本当に楽しかった。  それからたくさんの人と踊ってきた。一樹に康介、玲央。低学年の時は博や謙太とも踊ったし、清澄先輩に蓮先輩、雄貴先輩やすばる先輩、健司先輩と先輩達にも挙げればきりがない程踊ってもらった。  だけど、やっぱり一番踊ってきたのは慧で。お互い身長も伸びたのに、ステップのタイミングも歩幅も手の位置も、顔を見なくても全て噛み合ってしまう。  視界の端々に色鮮やかなロングドレスが入り込む。赤、朱、紅、橙、黄、緑、深緑、青、藍、紺、桃、薄紫。皆で選び合ったその人に一番似合うドレスは、誰一人重ならなかった。全員よく似合ってる。  こんなに大勢の前で注目されながら踊るなんてガラじゃない。だけど最後くらいこんな一回があっても良かったかもしれない。  同調するように頭上から吐息が降ってきた。見なくてもわかる。慧もきっと笑っている。  長いようであっという間な一時が過ぎた。オーケストラの弓が弦から離れた瞬間、割れんばかりの拍手に包まれた。
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