五、変わりゆく日

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 パーティーのクライマックスは毎年豪華な景品が目白押しのビンゴ大会だ。  メインフロアには散り散りになっていた生徒達が一堂に会して、特製カードを片手にその時を今か今かと待ちわびている。舞台袖からでも期待に満ちた表情が見渡せた。  ーーでも、ドキドキしているのはこちらも同じ。 〈お待たせ致しました。それでは今回の景品の発表です〉  慧と二人で舞台上に出ると、全ての視線がこちらに向いた。だけど、続いて博と謙太、宏太が景品を乗せた巨大ワゴンを引いて出てくると、いくつかの表情が落胆へと変わる。  今年は家具や家電なんかの大きな景品は一切ない。 〈目玉景品を紹介します〉  高価な物はドリームランドのホテルスイートルーム宿泊券や豪華ディナーペアチケット、まどかお姉さんの会社の美容院の永久無料券くらいで、残りはほとんど食品だ。ドリームランドのホテルに今回限定で作ってもらったランチやクリスマス限定のスイーツ、普段学園では販売されていない特別なチョコレートやクッキーのセットに、少し高価なご飯のお供の類。これだって学生のビンゴの景品としては十分過ぎるくらいだと思うけど、高ランクだけのパーティーだった時の景品を知っていれば物足りなく感じるだろう。  でも、ただでさえ落ちた予算から全員に景品を渡そうとしたらこれが限界だった。だからお金をかけなくても喜んでもらえるモノはないか、本気で考えた。   〈そして今回はもう一つ、私達生徒会から生徒全員にプレゼントがあります〉  その結果がこれだ。  小さく頷いて目配せすると、舞台袖にいる華が動いた。 【春休み 帰宅&外出権】  降りてきたスクリーンに十文字にも満たない文字が投影される。 〈春休みの二週間、全員の一時帰宅が許可された。帰る家がない生徒には学園にホテルを用意してもらうからただ外出するというのも可能だし、帰りたくない生徒は人の少ないドリームランドで春休みを満喫してもいい〉 〈好きに選んでください。これは今年だけではありません。学園・政府に約束してもらいました。今後、春休みには生徒が自由に帰宅・外出・居残りを選べるようになります〉  家族のもとに帰っても良い。  友達や親戚に会いに行っても良い。  先に卒業していった大切な人達に会いに行っても良い。  ただ学園の外に遊びに行くのでも良い。  今まで通り学園で過ごしてもいい。  選んでいい。  それは学園にいる限り与えられる筈がなかった選択肢、自由で。 「え……」 「うそ……」  言葉の意味を理解した生徒から両手を挙げ、叫び、抱き合い、飛び跳ね、思い切り笑った。
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