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六、巣立ちの日
「準備できたか?」
「あと少しだけ待ってー!」
咲希は答えながらぐるりと部屋を見回した。最初からあった家具以外は既に返したり譲ったりしてしまったから、目の前に広がっている光景は入学した時に見たものとほとんど同じだ。
ーーこんなに広かったんだ。
八年間でこれが当たり前になってしまっていたけれど、こうして改めて見るとその広さや豪華さに気づかされる。
春奈さんに使ってもらっていた部屋にもクローゼットルームにも、もう空の棚しかない。外に持って行けるのはスーツケース一個分の荷物だけで、大事な物だけ詰め込もうとしてもすぐにいっぱいになってしまって、持って行く物を選ぶのに丸二日かかった。その苦労して詰めたスーツケースも、既に玄関前に移動してある。
「咲希?」
「ん。もう行く」
隣に座るジスランをひと撫ですれば、ジスランも何かを感じ取ったらしい。立ち上がり、部屋を大きく一回りしてみせてから満足げに戻って来る。
「ジスラン、行こっか」
扉に手をかけると、ジスランはするりとその隙間からから出て行った。
最後にもう一度振り返った。
これで八年間過ごしたこの部屋ともお別れだ。
初めて見た時に驚いた天蓋付きのベッドも、皆の溜まり場になったリビングも、春奈さんと料理したミニキッチンも、慧と毎晩ビデオ通話したダイニングテーブルも、全て見納め。
「さようなら、ありがとうございました」
その言葉が自然に出てきた。
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