六、巣立ちの日

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 慧は廊下で待っていてくれた。お互い何も喋らずに連れ立って、向かうのはバルコニーだ。  細長い廊下を抜けた先には、既に博と謙太、哲平と宏太と眞子が揃っていた。 「ごめんね、お待たせ」 「咲希せんぱぁい」  眞子の瞳は潤むどころの騒ぎではなくなっていて、宏太の肩で勝手に涙を拭っている。らしくて可愛い後輩に向かって手を伸ばすと、衝撃と共に小柄な体が腕の中に収まった。 「卒業、やめません?」 「やめられないかなあ」 「二年くらい留年しましょ! それか学校通わなくていいから寮の守り人って事で!」 「春休みにまた会えるでしょ? それに、あと二年待ってるから」 「ゔー……」  いつかの自分の言葉がそっくりそのまま返ってきて、嬉しくもあり寂しくもありこそばゆくもある。色んな感情のままに眞子を抱き締めると、慧はその間に八年間の定位置に腰を下ろした。 「用意できたか? 井丹は?」 「完了。荷物はもう下に置いてきたよ」 「俺も。華とは連絡先と住所交換してるし、お互い実家に顔出したら会う約束してる」  謙太と博は笑ってはいてもどこか寂しげで、哲平と宏太は目を伏せた。  本当なら眞子が落ち着くまで待ってあげたいけれど、残された時間はあまりない。顔を見合わせて小さく頷くと、慧が本題を切り出した。 「咲希とも話し合ったんだけどな、次の寮長は眞子、副寮長は宏太に頼みたいと思ってる」 「はい」 「……え?」  宏太が当然とばかりに頷くのに対して、眞子は驚いた表情。だけどこれが二人で考えて出した結論だ。
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