六、巣立ちの日

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 一階はすごい事になっていた。その騒ぎは階段を下りる途中、まだその光景が見えない所からでもわかる程。 「先輩達そろそろ下りてくるよね……」 「泣きそう」 「外! 車来てる!」 「まじかよ!」 「早すぎるだろ」 「やだぁーっ!」  先輩冥利に尽きる卒業を嘆く言葉と、言葉にもならない悲鳴のような声ばかりが聞こえてくる。そしてそんな声はお互いの姿が視界に移ったところでぴたりと止まった。 「皆、見送りありがとう」  その瞬間、確かに何人もの瞳が揺れた。 「先輩……」 「やだぁっ」 「いつまでも皆元気で楽しく、辛い時は周りに相談するのを忘れないでね。珠里、これからも花梨と湊と仲良くね。珠里なら絶対今のランクを維持できるから。歌、ここにいる皆、あなたの味方だからね」 「次の新入生にもいい兄貴になってやってくれ」 「諒太のダンス、本当にすごい才能だよ。これからも伸ばして」 「しっかりな。班活動、引っ張ってやってくれ」  四人で一人一人に声をかけながら、皆が作ってくれた花道を進む。最後はこの花道を作ってくれたであろう最高学年の二人。 「京子、佳那」 「咲希先輩……」 「卒業、おめでとうございますっ」  京子と佳那の瞳からも涙が溢れ落ちた。 「今まで仲良くしてくれてありがとう」 「そんなっ!」 「私達こそ咲希先輩といれて嬉しかったです!」 「私も嬉しかったよ。眞子の事、支えてあげてね。二人の楽しかった、嬉しかったを今度は後輩達に返してあげて」 「はいっ!」 「勿論です!」  花道の終わりには一台の車が待っていた。昔の名残なのか車は今も変わらないのか、車に詳しくなくてもわかる車体の長い高級車だ。 「じゃあな、あとは任せた」  運転手がドアを開けてくれた先にまずは博が。 「皆、元気で。と言っても春休みに会える人も多いだろうけど」  続いて謙太が乗り込んだ。
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