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反射的に慧を振り返っても、何を言われているのか理解するのに数秒を要した。
ーー結婚しよう。
結婚。
結婚。
私と、慧が結婚。
「何驚いてるんだよ」
「だって、いきなりだったから……」
「三年分って予告しといたろ」
「だからってまさか歩いてる時とは思わないじゃん」
「俺達らしくていいだろ」
ぶっきらぼうな言葉だけど、それが照れ隠しなのはよく知っている。慧はポケットから紺色のベルベットケースを出して、咲希に向き直った。
「結婚しよう」
ケースの中にはダイヤモンド一石が存在感を放つシンプルな指輪。真っ直ぐにこちらを見る瞳ともう一度かけられた言葉が現実なんだと教えてくれて、全身の熱が顔に集まる。
「返事は」
そんなの聞かれなくても決まってる。そしてそれは慧もわかってる。
「うんっ」
頷いた瞬間、それまでは僅かに残っていた距離が無くなった。
照れや胸の高鳴りはあるけれど、それ以上に安心する。
最初は衝突する事も多かったのに、いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていた。
一緒に学んで一緒に強くなって、大切なモノを守るために一緒に戦った。
辛い時はお互いの存在が支えだった。
いつしかなくてはならない存在になっていた。
今ではお互いの考えも手に取る様にわかるし、好きな物なんかは本人よりわかっているかもしれない。
間違いないのはお互いがお互いの唯一であるという事。
ずっと一緒にいよう。いつかした約束が現実のものになる。
幸福感に酔いしれながら、どちらからともなく唇を重ねた。
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