番外編

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 そんな中で出会ったのが秀樹だった。 「馬鹿じゃないか」  秀樹は口だけじゃない。テストの点数で生まれて初めて同級生に負けた。 「五月蝿いな、文句を言うのは俺に勝ってからにしろよ」 「先輩だから何だよ? そんな事関係ないだろ」 「負け犬が」  他の人が聞けばきつい言葉かもしれないけれど、秀樹の言葉には嘘がない。ここまで強く在り続けられる人は他にいない。信用できる。 「ねえ」  気づけば自分から話しかけ、同じ寮を選んでいた。 「まどか、この学園にいるからには一番でないと意味がない。俺は寮長になる」 「そう。で、私は副寮長かしら?」 「話が早いな。俺達で学園を掌握しよう」  秀樹といるのは楽だった。話も合うし、目指す方向性も同じ。  上で在る。  強く在る。  かしづかれる存在で在り続ける。  取り繕う必要がなくて、呼吸をするのがこんなにも楽である事を初めて知った。  一樹の存在に気がついたのは必然だった。  何に対しても余裕のある態度を崩さない秀樹が唯一表情を歪める相手。格下のAランクだというのに常に意識し続ける存在。  注意深く見ていれば、『同じ』だと気がつくのに時間はかからなかった。  一樹に接触したのはただの興味、それか暇つぶしだった。 「ねえ」 「蘭沢さん。何の用かな?」 「あなた秀樹と同じでしょう? 人が良さそうな皮を被って、何がしたいのかしら」    でも。 「君は世界をつまらないと思っているだろう?」 「え?」 「僕は世界が憎い。だから全て変えてやるんだ」  生まれて初めて胸が高鳴った。  知れば知る程に溺れた。  柔らかな物腰の下に隠した強い瞳。  目的を達成するためなら手段を選ばない狂気。  でも、私がどれだけ手を伸ばしても彼は振り向いてもくれない。  やがて信者のように彼を慕う後輩が増えていき、ラウンジで、図書館で、寮の近くで、廊下の隅で。至る所で彼を称えて囲む姿を見るようになったけれど、彼の晴れやかな表情を見ることは一度もなかった。    この私がどれだけ望んでも手に入らない。  だから余計に心が奪われる。  寮でもクラスでも私に逆らえる人はいない。みんな私に畏敬の念を抱き、傅き、何だって聞いてくれる。 「つまらないから髪を染めてきて。ピンクがいいかしら」 「え、でもこの間……」 「何? 私の言うことが聞けないの?」 「いえ!」 「まどか様! お父様から小包が届いていますよ! 高級ブランドの包みです!」 「あらそう。運んでおいて」  心が満たされる事はなかった。だから。 「あら、あなたが私達に用事なんて珍しいじゃない」 「ああ。ちょっと頼みがあってね」 「頼み?」 「妹を普通科に引き取ってほしいんだ」  茨の道だとわかっていても、その手を取ってしまった。  
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