番外編2

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 当日は雲一つない快晴だった。  会場は誰もが知る都内五つ星ホテル。姫が挙げてくれた候補の中から、皆の集まりやすさや料理の味、演出の種類の多さやサービスの質で選んだけれど、姫の中でもここが第一候補だったらしい。決めた時には両手を挙げて喜ばれて、次の日には日取りが決まっていた。何故そんな場所の予約が三ヶ月後の予約が取れたのかは聞かないでおいたけれど。  そんな場所に似つかわしくない叫び声が響いた。 「えーっ!」 「咲希……慧……」 「やられた……」    楽しみにしてもらっていた姫達には少し申し訳ないとも思ったけれど、チャペルは内緒でキャンセルさせてもらった。  チャペルで神前式を行えば、バージンロードがある。  お父様でよろしいでしょうか?  ウエディングプランナーに聞かれて、ふと考えてしまった。    恨んでいるわけではないと思う。実家には由羅が住んでいるし、心菜も戻る予定だ。きっとこれからも顔を出しに行く事はあると思う。でも、もうあの家は私の『家』じゃない。ネデナ学園に入学する前はずっと暮らしていた筈なのに、いつの間にか『家』と呼べる場所は変わってしまった。  ご飯を作ってもらった。必要な物を買ってもらった。保護者面談に来てもらった。風邪をひけば世話をしてもらった。今になって思えば、親らしい事もたくさんしてもらった。  でも、いつだって優しい言葉をかけてくれたのは一樹だった。不器用な手で頭を撫でてくれたのは康介だった。温かく、時に厳しくここまで導いてくれたのは姫だった。いじめっ子から守ってくれたのは由羅で、笑わせてくれたのは玲央で、辛い時に二度も助けに来てくれたのは園香先輩で、いつだって抱きしめて愛を伝えてくれたのは柚子先輩で、いつだって温かい目で見守ってくれたのは蓮先輩だ。  それに、今日の私達を見てほしいのは神様じゃない。  だから。 〈これより始めさせていただきます結婚式は、ご列席いただきます皆様方に向けて、 おふたりより結婚の誓いを立てていただき、ご列席の皆様にご承認していただく、人前結婚式でございます。ご列席の皆様は 新郎新婦様にとって大切な方々です。おふたりは、この大切な皆様の前で、愛を誓いたい、見守っていただきたい、というお気持ちからこの人前式をお選びになられました〉  日本一とも言われる豪華絢爛なチャペルも、バージンロードも神様への誓いの言葉も、私達には必要ない。
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