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まどかの姿は食堂近くの洗面所にあった。きちんと閉める余裕もなかったのだろう、扉は僅かに開いたまま。まどかはその奥で洗面台にしがみつくようにしてしゃがみ込んでいた。
「大丈夫ですかっ⁉︎」
「え、え。へーきよ」
そんな事言われても全然大丈夫には見えない。
これは間違いない。海里先輩は食欲が増した以外はほとんどなくて元気一杯だったけど、個人差があるらしいから。
「間違ってたらごめんなさい。でもお腹に……赤ちゃんいますよね?」
咲希が声をかけると、洗面台を掴む手が僅かに跳ねた。
「とりあえず……スープは端に寄せるのでベッドで休みませんか?」
「ほんと、大丈夫だから……」
「給仕の人達には二人で話したいとか理由をつけて出てもらいますから、ね? お願いします」
その目は涙で潤んでいて、悪阻だけが理由とは思えない。
結局、まどかは人払いをするからというお願いに折れてくれた。
「ここ座ってください。これクッションで、いまブランケット持ってきますから」
部屋の広さがこういう時は有り難い。テーブルをできる限り部屋の手前端に寄せて、まどかには奥のベッドに座ってもらう。
「病気じゃないんだから」
「そんな事言われても……」
苦笑されてしまったけれど、どう見ても体調が悪そうなまどかを前に気遣わずにはいられない。結局ブランケットとお水、そして迷ったけれど念のためのエチケット袋を渡して少し離れて隣に座った。
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