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「……この部屋、ソファーはないのね」
「元々食べる寝る以外は勉強してろって感じのスケジュールなんで」
「ああ……そういう事」
まどかは水を飲んで少し落ち着いたらしい。やりそうね、なんて言って微笑んだ。一拍置いて口を開く。
「赤ちゃん、いるんですよね?」
「……まあね」
もう誤魔化そうとはしなかった。
「今どれくらいなんですか?」
「まだ二ヶ月……わかったばかりよ」
そう話すまどかは、喜びに満ち溢れていた海里先輩とは違って見える。
「……おめでとうございますでいいんですよね?」
「……どうかしら」
恐る恐る尋ねると、自嘲するような笑みが返ってきた。
何となく予感がした。最初は隠そうとしていた。人払いをすると言ってようやく戻って来てくれた。そして、この笑い方。
「……その子のお父さんって私の知ってる人ですか?」
でなければこんな顔するわけない。十数秒がやけに長く感じたけれど、答えは返ってこなかった。
「私の兄ですか……?」
その沈黙に確信する。
「一樹、ですか?」
それが答えだ。
重い雰囲気を破るように、大袈裟なくらい明るく笑った。
「何でそんな顔してるんですか! おめでとうございます! 一樹は何て⁉︎」
「…………言ってないわ」
長い沈黙の後ようやく返ってきたのは、囁きのような小さな声だった。
「何で!」
「……喜ばれるわけがないもの」
「そんなわけ!」
「そもそも私達、恋人でも何でもないもの! 向こうは私に恋愛感情なんて持ってないわ」
「は……」
あまりに不穏な言葉が聞こえた気がする。思わず声とも言えないような息が漏れた。
「……あの、二人が仲良くしてる所見た事なかったんですけど……いつから……?」
「学園にいた頃からよ」
それはつまり、少なくとももう六年はそういう関係という事で。
「それ付き合ってるっていうんじゃ……」
「好きと言われた事もなければ二人で外出した事もないけど? あるのは利害関係だけ。花園からは見えない綺麗じゃない世界もあるって事よ」
まどかは咲希の言葉にゆっくり、でもきっぱりと言い切った。だけど。
「一樹にはって事は……蘭沢先輩は一樹の事、好いてくれてるんですよね」
「…………ええ」
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