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たった一言。それなのに女性にしては低いまどかの声をより重たく感じた。
言いたい事はたくさんある。最初に出てきたのは謝罪の言葉だ。
「……兄がした事、謝ります」
「……言っておくけどあなたのお兄さんは本当は……」
「知ってます。本当は従兄弟なんですよね? 城之内先輩も」
淡々と答えると、それが意外だったらしい。まどかは小さく目を見開いた。
「……知ってたの。言っておくけど、狙いはあなたよ?」
「は……?」
今度はこちらが耳を疑った。
「跡取りになったらどんな事でも願いが叶うって言われてるんだって。あの人の願いはただ一つ……お花ちゃんを本当の家族にする事。何十回も聞かされたわ」
「え……?」
「まあ、お嫁さんにする気なのか戸籍をいじって本当の兄妹にする気なのか養子縁組でもする気なのかはわからないけどね」
「は?」
「あら、知らないの? 従兄妹って結婚できるのよ」
「え?」
あまりの内容に言葉が出てこない。
戸惑いを隠せない咲希の姿に、まどかは今日初めて本来の笑みを見せた。本当ならほっと息を吐きたいくらいだけど、そんな事気にしていられないくらい衝撃的な言葉が出た気がする。
「……結婚……? 養子縁組……?」
「そうよ。それくらいやるわよ、あなたの従兄弟やお祖父様は。自分だけ特別愛されていた自覚くらいあるでしょ?」
「ありますけど……何で一樹は弟妹の中で私だけ?」
「さあね。でも昔からあなたの事しか考えてないの」
ふつふつと怒りが沸き上がった。
記憶の中のこの人はいつも勝気な笑みを浮かべていた。それと同時にSランクを維持できるだけのも力がある強い人だ。そんな人がこんなに弱ってしまうまで悲しませて。
人の人生を勝手に決めて。
色んな人を巻き込んで、利用して、傷つけて。
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