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「ありがとう」
慧の背に回っていた手を解き、ジスランの大きな体を抱きしめる。出会った時は簡単に抱き上げられたのに、今じゃ立派な大型犬サイズ。ふわふわの毛に顔を埋めると、ジスランも嬉しそうに体を擦り寄せてくる。
それを見た慧の口角も上がった。
「とにかく気づかれる前に急ごう。外に出るぞ」
「うん」
返事をして立ち上がる。目もだいぶ暗闇に慣れて、うっすらと周りが見えるようになってきた。慧の姿にジスランの毛、足元のカーペットにサイドテーブルも見える。そして……。
「どうした?」
ある一点に目が留まった。全身が硬直したように動かない。
「……ごめん」
絞り出した声は震えた。
「だからどうした⁉︎ 急ぐぞって!」
「行けない。お願い、慧。ジスランを連れて学園に戻って」
「おい!」
「わかってるでしょ⁉︎」
サイドテーブルの上にあるデジタル時計は午前一時半を示している。つまり慧達は六時間以上歩いて来てくれたという事。そして、ここから学園まで戻るのにも六時間以上かかるという事だ。外への出口は更にその先。
「……今から歩いたら出口に着く前にきっと見つかる」
どうしたって間に合わない。そう言うと、慧は珍しく強引に咲希の手を引いた。
「なら外は諦めて学園に戻ればいい。寮に隠れて、また抜け出すチャンスを見つけよう」
「私がここからいなくなったら真っ先に調べられるよ⁉︎ 見つかったら今度は匿った慧までどこに連れていかれるかわからない!」
「置いてけるわけないだろ!」
「お願いだから置いてって!」
思わず語気が荒くなる。
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