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「俺がどれだけの事させられてきたかわかるか? 子供の頃から自由も遊びもなく勉強ばっかりさせられてさあ」
「え……?」
「今までの人生、跡取りになるためだけに犠牲にしたようなもんだ」
何の事を言っているのかはわからない。咲希が戸惑い硬直している間にも、距離は一歩、また一歩と縮まって。
「それが何だよ? お前を連れて来たからあいつが跡取りってふざけてるのか」
そして腕を伸ばせば簡単に届く距離で立ち止まった。
「そんなにお前が可愛いのかよ、あの人はさ」
「何を言って……」
「同じ孫だっていうのにいつもお前ばかり特別扱い……お前が死んだらどう思うかな」
その瞬間、よけるより前に手が伸びてきた。咲希の首を正確に掴んだ手は、少しずつ力を増していく。
「いいなあ、愛されてるお姫様はよ」
「なっ」
「本当なら今まで二回Sランクから落ちていたらしいぞ? それなのに特別扱いでSランク」
「やめっ……くるしっ」
「こっちは一度でもSランクから落ちたら終わりだって言われてたのに、ほんとに……」
そこで言葉が切れた。恐る恐る見上げると、今日初めて城之内の感情を見た。口元は揺れ、腕は小刻みに震えている。
――そういえば、苦しいけど息はできる。
本気で殺そうとしているならとっくに話なんてできなくなっている筈だ。
そこまで気づいてみると、その姿は首を絞められている咲希以上に苦しげに見えた。
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