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「……わかった」
慧は少しの間惜しむように黙っていたけれど、やがて体を離した。そしてポケットから取り出した物を咲希に差し出す。
「これ……」
「必要だろ?」
もしもの時のために持ってきた。まだ少しぎこちないけれど、その口角は上がっている。
「博達にも手伝ってもらって性能上げといたからな」
それはつまり、先端技術科にとってはまたとない状態だという事で。
「ありがと」
咲希も微笑んで懐かしいそれに手を伸ばした。
「……久しぶりなんだけど、うまくできるかな」
「できるだろ。俺達の七年間をなんだと思ってるんだ」
「そうだけど……」
「それに、約束守ってくれなきゃ困る」
拗ねるような有無を言わせない言葉。それは信じてくれているから、想ってくれているからだとわかってる。
「うん」
どちらからともなく触れるだけのキスをした。
「じゃあ気をつけて」
「待ってる」
「うん、絶対戻るから待ってて」
最後にもう一度それぞれを抱き締めて、暗い廊下を進む一人と一匹の後ろ姿を見送った。
胸元で大切に持つのは、見た目は電子辞書、中身は一般ではまずお目にかかれないハイスペックパソコンだ。清澄先輩にもらい、蓮先輩と柚子先輩がアップグレードしてくれて、また慧達が手を加えてくれた。
これで手段ができた。私は一人じゃない。ほっと息を吐く。
時刻はまだ午前二時。でも体は興奮していて、とても眠れそうにない。
ーーなら。
向かうのはベッドではなく勉強机だ。半年間で鈍った勘を取り戻すため、パソコンを開いた。
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