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チャンスは思いの外早くやって来た。
慧達が来てくれたその週末、授業中に扉が開いたかと思えば再び城之内が入って来る。
「あの、授業中で」
「五月蝿いな。そんなの止めだ、出て行け」
「でもっ」
「出て行け」
「はいっ!」
慌てる講師を睨みつけて追い出してしまうのも前回と全く同じ。でも、今日は学園にいた頃のような余裕を感じさせる笑みだ。
講師が出て行き扉が完全に閉まると、意地の悪い笑みを浮かべて咲希の前の椅子に座った。
「どうしたんですか?」
「君にいい報告を持って来たんだ」
「いい報告?」
「ああ」
城之内が差し出したのは数枚の書類。見れば咲希の小テストの結果や授業の様子が事細かに書いてある。講師からの報告書のようだ。
「流石はSランク様だね。いい事ばかり書いてある」
「……ありがとうございます」
褒めに来たわけがない。こんな顔をするという事は何かある。嫌な予感はすぐに的中した。
「あの人はこの結果にお喜びでね。今度は君を跡取りにするって言い出した」
「え?」
「良かったね。たった半年の努力で城之内家の跡取りだ。金も権力も全部君の物だよ」
「だって、一樹は……?」
「君が一人前になるまでの繋ぎってところかな? ああ、当然あいつは知らないよ。君が一人前になるか優秀な結婚相手を見つけたところで、いきなり発表するんじゃないか?」
本当に良かったね。城之内はそう言うけれど、絶対本心は違う。笑っているのも嘲笑だ。
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