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「メリット? そもそも私、跡取りになんてなりたくないですもん」
「金も力も手に入る。Sランク以上の生活が生涯約束されるんだぞ?」
「そんなのいりません」
「なら君の望みは?」
「……私、もうすぐ甥っ子か姪っ子が生まれて叔母さんになるんです」
「は?」
少し戯けて笑ってみせると、城之内は眉を寄せた。後ろ姿は一樹に似てるのに、こういうところは康介に似ている。改めて血の繋がりを感じた。
「私の願いはその子のお母さんが何の憂いもなくで出産できて、生まれてきた子がのびのび元気に育ってくれるような環境を作る事です。勿論、それだけじゃなくて私も皆の所に戻りたいし、誰かに決められた相手じゃなくて好きな人とお付き合いしたいです。それで皆で卒業して、皆で康介と姫の所に遊びに行ったり、その子と遊んだりしたいんです」
「……大層な願いだね」
城之内は吐き捨てる。
「そうですね。そのお願いは伯母さんに似てるのかも」
「は?」
「これを読んでください」
隣の椅子を引くと、そこには美由紀さんの想いが書かれたハードカバーがずっと積みっぱなしになっている。その全てを机の上に置いて城之内の方へと押しやった。
「何これ」
「城之内先輩なら読めばわかるんじゃないですか?」
なんとなく、それ以上は教えてはいけないと思った。
少しの沈黙の後、城之内は黙って本の山を引き寄せた。それは了承の意ととっていいだろう。
「読んで、もし私に協力してくれるならもう一度来てください」
「……俺に指図なんていい度胸してるよね」
「いいじゃないですか。先輩からしたら跡取りの座を奪われるのをただ受け入れるか、私と一泡吹かせるかの違いでしょ?」
「……読んでつまらない物だったら、あの人に君の婚約者候補を推薦しておくよ。とびきり優秀で性格に難がある奴らをね」
「どうも」
とても従兄弟同士とは思えない嫌味の言い合いだ。だけど自信がある。この人が裏表紙の文字に辿り着かないわけがない。そしてそれを見た時、何も感じないわけがないと。
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