二、

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 決行の日は寝不足だった。寝なきゃ寝なきゃとは思っても、脳が興奮して眠るのを拒む。頭の中で素数を繰り返してどうにか眠りについた。  だから睡眠時間はいつもよりだいぶ短い。それなのにアラームが鳴る前に目が覚めた。  運ばれてきた朝食は五分で片付けて、戦闘準備に力を入れる。義務からではなく、久しぶりの心を込めてのメイクだ。  ーー結坂さんには青みがかったピンクが合いますね。  ーー咲希、気合いを入れたい時にはこれ! 隠しラメ!  ラメの入ったピンク色のアイシャドウを塗って、アイラインはキワまでしっかり、いつもより太めに引く。チークは青みピンクで、久しぶりにマスカラまで塗った。髪だってヘアアイロンまで使ってサラサラのストレートヘアを作り上げた。  春奈さんや海里先輩の言葉を思い出しながら、メイクを施した。  服は本当は動きやすいデニムなんかが良かったけれど、そんな物は用意されていない。代わりに姫を彷彿とさせる真っ白なレースワンピースに身を包む。  このワンピースは一見機能性より美しさ重視なのに、左右に大きめのポケットがついている優れもの。右のポケットには電子辞書型ノートパソコンと大切にしてきた白いハンカチを入れ、悩んだけれど一樹に貰った鳥籠のネックレスを左のポケットに落とした。  そして最後にお守りにしていた紺のリボンのヘアゴムで髪を一つに結ぶ。 「よし!」  鏡に映る自分は久しぶりに満足のいく出来だった。
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