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「やめ、て」
どうにか声を絞り出す。
それだけでは力は弱まらなくて、今度は手を伸ばした。
「く、し、から……や、めてっ」
伸ばした手は城之内の腕に当たった。その途端、足りていなかった酸素が一気に肺に雪崩れ込む。
「く、ハァッ、ハッ………」
初めて呼吸するのが痛いと思った。椅子の上で体を丸め、痛みに耐える。
「ハッ……ハッ、ハァっ……」
そして、荒い呼吸が整い始めると頭も冷静になってきた。
「え……?」
ーーこの人は今、何て言った……?
咲希が顔を上げると、城之内はまた無表情で立ち尽くしていた。腕はだらりと垂れ下がり、体に力が入ってない。今にも崩れ落ちそうに見える。
そんな人が……。
「同じ、孫……?」
声に出すと肩が僅かに跳ねた。
「城之内先輩と私が……? え、そしたら私達、いと、こ……?」
答えは返ってこない。だけどこの人が否定しないという事は、それが真実だ。
「城之内先輩が従兄弟で、そしたら一樹も従兄弟で、あの人は……おじいちゃん?」
全てが繋がった気がした。
口には出してみたものの、実感は湧かない。目の前に立つこの人は、入学して初めての普通科の寮長で怖い人、そんなイメージしかない。こんな弱った姿、想像した事もなかった。
だけど跡取りという言葉。慧が言っていた『城之内』という苗字。一人だけ反省棟ではなくこんな豪邸に連れて来られて、週二回夕食を共にしているという事実。
全てが考えを裏付ける。
やがて。
「そうだよ」
城之内は囁くように咲希の問いかけに答えた。
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