一、

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「やめ、て」  どうにか声を絞り出す。  それだけでは力は弱まらなくて、今度は手を伸ばした。 「く、し、から……や、めてっ」  伸ばした手は城之内の腕に当たった。その途端、足りていなかった酸素が一気に肺に雪崩れ込む。 「く、ハァッ、ハッ………」  初めて呼吸するのが痛いと思った。椅子の上で体を丸め、痛みに耐える。 「ハッ……ハッ、ハァっ……」  そして、荒い呼吸が整い始めると頭も冷静になってきた。 「え……?」  ーーこの人は今、何て言った……?  咲希が顔を上げると、城之内はまた無表情で立ち尽くしていた。腕はだらりと垂れ下がり、体に力が入ってない。今にも崩れ落ちそうに見える。  そんな人が……。 「同じ、孫……?」  声に出すと肩が僅かに跳ねた。 「城之内先輩と私が……? え、そしたら私達、いと、こ……?」  答えは返ってこない。だけどこの人が否定しないという事は、それが真実だ。 「城之内先輩が従兄弟で、そしたら一樹も従兄弟で、あの人は……おじいちゃん?」  全てが繋がった気がした。  口には出してみたものの、実感は湧かない。目の前に立つこの人は、入学して初めての普通科の寮長で怖い人、そんなイメージしかない。こんな弱った姿、想像した事もなかった。  だけど跡取りという言葉。慧が言っていた『城之内』という苗字。一人だけ反省棟ではなくこんな豪邸に連れて来られて、週二回夕食を共にしているという事実。  全てが考えを裏付ける。  やがて。 「そうだよ」  城之内は囁くように咲希の問いかけに答えた。
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