二、

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 後ろ姿を見送ってふと顔を上げると、既に一時間以上経過していた。もう時間はあまりない。監視カメラの作業を終えると、スピードを上げようと次のファイルに取り掛かる。でも、それ以上先には進めなかった。  次のファイルもその次のファイルも、そもそものアクセス権限がない。アクセス権限があるコンピュータまではわかったけれど、侵入するにもセキュリティが強固すぎる。試してみると残りのファイル全部がそうだ。 「ここまで、か……」  呟いて、開ける事ができた全てのファイルをUSBメモリにコピーする。そして初めて大きくのびをして立ち上がった。  静か。思えば誰もいない談話室なんて初めてかもしれない。そのままティーカウンターに移動すると、前よりも種類は減ってしまったけれど、変わらずお菓子やお茶が並んでいた。アイスティーを淹れて再び椅子に戻る。  ーーあと少しで皆が帰って来る。  そう思うとそわそわして落ち着かない。本当なら玄関まで迎えに行きたいような、立ってうろうろしていたいような。だけど監視カメラは切ったとはいえ、携帯からの盗聴は残っている。  そこでふと思いついた。思いついたら行動あるのみ。再び立ち上がって準備に取り掛かる。  食堂横の倉庫から大きめの箱を持ち出して、食堂の棚からは紙とマジックペンを引っ張り出す。大きく【帰ってきたら携帯をここに入れて、静かに談話室へ】なんて注意書きを書いて箱に貼り付けて、玄関に設置すれば。 「これでよし」  やっと懸念事項が無くなった。  満足な出来に一人で頷いて、やっとゆったり座り直す。
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