一、

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 続いたのは嘲笑うかのような言葉。 「首を絞められててもそこは聞き逃さないか。一応Sランクってわけだ」 「茶化さないでください」  低く唸れば、また失笑ともとれる笑みが返ってきた。でも、城之内はそれきり口を噤んでしまった。何も話したくないのか、話す気力もないのか、その両方か。一つ息を吐き出すのと同時に肩を落として、それから何も言わない。  だけど、咲希だって混乱したままだ。 「え……あの人がおじいちゃん?」  今まで祖父母なんていなかった。 「城之内先輩が従兄弟で、そしたら一樹も従兄弟……? お兄ちゃんじゃなくて従兄弟だったって事……?」  伯父叔母の存在も、従兄弟なんて単語も両親から聞いた事はなかった。 「それなら何で一樹だけうちに? あの人がおじいちゃんって事は両親どちらかのお父さんって事……? 今まで誰もそんな事……」  寧ろ今まで親戚の存在を感じた事もなかった。それなのにこの事態だ。  そして、そこまで呟いてふと記憶が蘇った。  まだ一樹がネデナ学園に行ってしまう前、家族で動物園に行った。両親は尚人と心菜にかかりきりで、私は一樹と回って……。  でも、いつの間にか他の家族の姿が見えなくなって、二人で散々探しても見つからなかった。それで置いていかれたと思ってたくさん泣いて、一樹を困らせて……親切な人に家まで送ってもらった。  その時の車はすごく綺麗な黒い車だった。あの時は大はしゃぎしたけれど、あんなの普通の車じゃない。  保護してくれたのはスーツ姿の男の人だったけど、すぐに別の所に連れて行かれた。そこにいたのはお爺さんで、確か一樹が話をしている間、私は隣の部屋でお菓子をもらって、一樹くらいのお兄さんに相手をしてもらった。お兄さんは遊んでくれたりはしなかったけど、安心して泣き止んだ気がする。  今思えば動物園にスーツの男性がいるのも変。迷子を保護するのに動物園の外に連れて行くのだっておかしい。しっかり者の一樹が、他の人の家で小さな妹を一人にする事だって初めてだった。  あれは……あの人達は……。
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