二、

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「城之内先輩は先に行って鍵開けといてくれるって」 「わかった」  頷きながら見慣れた、だけど懐かしい道のりを足早に進む。  一応五人が庇うように周りを囲んでくれてはいるけれど、授業が終わって一時間。帰宅ラッシュは一服している時間だからか通学路上に人気はない。賑やかなショップ街を横目に見ながら監視カメラを避けて歩き、二本の大木が植えられた丘を越えるとその先に校舎が現れる。  見上げた校舎はやっぱり荘厳だ。 「なつかし……」 「だろうな」  思わず呟くと、呆れたような返事が返ってきた。そのジト目はそんな場合じゃないだろと告げている。 「わかってるって」  小さな声で答えて背筋を伸ばし、校舎に向き直る。 「校舎内で監視カメラを避けて歩くのは無理だろ。どうする?」  尋ねたのは博だ。その言葉に慧と再び顔を見合わせる。そして同時に口を開いた。 「突っ走ろう」  監視カメラをいじれない、そして避ける事もできないなら選択肢はそれだけだ。  すると、四方から息を吐き出すような音が同時に聞こえてきた。 「りょーかい」 「校舎を全力疾走なんて初めてだよ」 「井丹先輩は大丈夫ですか?」 「大丈夫大丈夫ー! 私運動神経まあまあいいから!」  四人の言葉に自然と口角が上がる。 「行くぞ」  慧の言葉を合図に一斉に走り出した。  生徒会室は一番上の階の一番奥だ。校舎に階段は二箇所。でも、奥の階段を使うには職員室の前を通らなければならない。だから必然的に、校舎に入ってすぐの階段を駆け上がる事になる。  前までならこんなの余裕だった。だけど半年間走ってもなければ泳いでもいない体には、階段ダッシュはきついらしい。 「大丈夫か⁉︎」 「んっ!」  まともな返事も辛いくらい胃が掴まれたようにぎゅっと痛む。
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