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「昔……一度だけ会った事ある……?」
震える声で尋ねると、城之内が顔を上げた。
「……へえ、覚えてたんだ」
「今思い出しました……」
その瞬間、半信半疑だった記憶が確信に変わった。
ーー何で今まで思い出さなかったんだろう。
あの時あんなに安心できたのは、相手をしてくれたのが一樹に似たお兄さんだったからだ。
でも、あれは同時に嫌な記憶でもあった。私達が迷子になったのか、他の皆が先に行ってしまったのかはわからないけど、あれだけ探し回っても見つからなかったのは事実。知らない車に乗ったのも最初は怖かったし、結局家族が先に家に帰っていたのも悲しかった。それに、知らない人にお菓子を貰った事は子供心にいけない事だと思ってた。
だから誰にも言わなかった。
忘れたい記憶だった。
「あの時、何で……」
「さあ? 俺も急に連れて行かれたからね」
「何で……」
その続きは出てこなかった。
何で一樹はうちにいたの?
何で双子なのに一緒じゃないの?
何でおじいちゃんはすぐに私達を保護できたの?
何でおじいちゃんだって教えてくれなかったの?
聞きたい事が多すぎる。でも聞いたら終わりな気もする。聞くのが怖い。
そんな咲希の想いを見透かしたかのように、城之内は力なく笑った。
「楽しようとしないでよ、お姫様。こっちは死ぬ程苦労してきたのにお前のせいでパーなんだ」
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