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足は自然に動いた。
「おい、咲希⁉︎」
「どうした?」
近づいて見てみると、その女性は裾が揺れるワンピース姿。まるで楽しいピクニックにでも来ているかのように微笑み、生き生きとしている。緑で覆われた世界の中で白いワンピースとなるとどうしてもその女性に視線がいって、どこか神々しさすら感じる。
その女性には見覚えがあった。髪、顔つき、服装。どれも屋敷で見た肖像画によく似てる。これはきっと……。
「……美由紀さん」
「は?」
呟くと、母親の名前に反応した城之内が駆け寄ってきた。それに他の皆も続く。
「これ、美由紀さんですよね?」
「確かに似てるが……」
「美由紀さんって?」
「俺の母親だ」
「え⁉︎」
謙太の驚きの声を合図に、全員の視線が再度絵画に集まった。
綺麗な、立派な油絵。これを何と言い表したらいいのか、言葉が出てこない。そんな中ぽつりと零したのは華だった。
「綺麗……この世じゃないみたい……」
その瞬間、頭の中で全てが繋がった気がした。
「わかったかも……」
「え⁉︎」
「本当か!」
「うん……」
二本の木に大きな川。どこか引っかかっていたけれど、華の言葉で気がついた。そっくりなのは美由紀さんだけじゃない、描かれている場所もネデナ学園にそっくりなんだ。
この絵はネデナ学園で美由紀さんが生き生きと笑っている姿を描いている。でも、もう美由紀さんはこの世にいない。
これは叶わない夢だ。
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