二、

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「移動するぞ」 「え?」 「拗らせた王子様はお姫様が心配で仕方なくてパーティーを抜け出してきたみたいだ」  そう言われて視線の先を見上げると、黒い物体が目に止まった。どんどん近づいてくるその物体は……。 「ヘリコプター?」 「一応襲名披露の予定なのにそれを蹴ってまで来るなんて愛されてるな」  城之内先輩は憎々しげに吐き捨てた。それはつまりあのヘリコプターに一樹が乗っているという事。 「着陸まで時間がない。行くか逃げるかどっちがいい?」 「行きます」  答えは一つだ。  ヘリコプターは本部の屋上に降り立った。  城之内先輩がカードリーダーをかざして扉を開けてくれて、初めてちゃんと正面から入る。今までまじまじと見る機会なんて無かったけれど、流石はネデナ学園。中は広く、照明はシャンデリアで廊下の床は大理石でできている。そんな本部の職員は皆理事長室に駆り出されたのか、静まりかえっていた。だから余計にも足音がよく響く。  コツコツコツコツ。  高低も間隔も違う複数の足音がただ奥に向かって進み続けた。  そんな中。カツ、カツ、カツ。  遠くから一つの足音が響いた。その足音はゆっくり、一歩、また一歩と階段を降りてくる。  階段が見えてきてこちら側の足が止まった。それでも足音はどんどん近づいてきて、そして。 「咲希、何をしてるのかな?」  現れたのは黒の礼服姿の一樹だ。
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