二、

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 怒ってる。言葉は穏やかなのに、笑っているのに怖い。眼鏡の奥の瞳は冷ややかにこちらを睨んでいる。 「終わらせようと思って。一樹こそ何でここにいるの」  負けないように強く出ると、一樹の口元は更に弧を描いた。 「咲希が悪い子だから連れ戻しに来たに決まってるだろ? さあ戻るよね?」 「戻らないよ」 「何で?」  即答すれば、言葉にまで圧がかけられる。他には目もくれない視線から庇うように尚人が割って入った。 「一樹、やめろよ!」 「お前には関係ないだろ」 「あるに決まってるだろ!」  一樹は学園にいた頃は他の兄弟には無関心だった。関わろうともしなかった。それが今では仇でも見るかのような冷たい視線だ。  ーー何で。何でここまで。  その瞬間。 「お前は家族じゃない」  一樹は吐き捨ててしまった。まずい。そう思った時には遅かった。 「そうかよ……」 「尚人!」 「そんな事言うなら一樹と咲希だって家族じゃないだろ!」  廊下は一瞬で静まり返った。尚人もしまったという表情をしたけれど、言葉は取り消せない。一樹の反応を見るのが怖い。  だけど、一樹の声は想像よりも落ち着いていた。 「そっか。咲希も知ったんだね」 「え……?」 「大丈夫、これからちゃんと家族になるんだ。今日から会社を引き継ぐから、そうしたら籍を変えよう。お金もたくさん手に入るから、咲希の好きな物をいくらでも買ってあげる。あの頃我慢していた分、いくらでも我儘を言えばいいよ」  背筋が凍った。
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