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怒ってる。言葉は穏やかなのに、笑っているのに怖い。眼鏡の奥の瞳は冷ややかにこちらを睨んでいる。
「終わらせようと思って。一樹こそ何でここにいるの」
負けないように強く出ると、一樹の口元は更に弧を描いた。
「咲希が悪い子だから連れ戻しに来たに決まってるだろ? さあ戻るよね?」
「戻らないよ」
「何で?」
即答すれば、言葉にまで圧がかけられる。他には目もくれない視線から庇うように尚人が割って入った。
「一樹、やめろよ!」
「お前には関係ないだろ」
「あるに決まってるだろ!」
一樹は学園にいた頃は他の兄弟には無関心だった。関わろうともしなかった。それが今では仇でも見るかのような冷たい視線だ。
ーー何で。何でここまで。
その瞬間。
「お前は家族じゃない」
一樹は吐き捨ててしまった。まずい。そう思った時には遅かった。
「そうかよ……」
「尚人!」
「そんな事言うなら一樹と咲希だって家族じゃないだろ!」
廊下は一瞬で静まり返った。尚人もしまったという表情をしたけれど、言葉は取り消せない。一樹の反応を見るのが怖い。
だけど、一樹の声は想像よりも落ち着いていた。
「そっか。咲希も知ったんだね」
「え……?」
「大丈夫、これからちゃんと家族になるんだ。今日から会社を引き継ぐから、そうしたら籍を変えよう。お金もたくさん手に入るから、咲希の好きな物をいくらでも買ってあげる。あの頃我慢していた分、いくらでも我儘を言えばいいよ」
背筋が凍った。
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