二、

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 あの人はきっと母の事。  チラリと城之内を見ると、無表情で一樹を見つめている。何も言わないという事は真実なんだろう。 「しかも勝手に引き取っておいて、自分にも子供ができたら他人の子は放置だよ。自分の子供で手一杯でアルバムだってないし授業参観なんかもまともに来た事がない。俺達が迷子になっても探しもしなかった。挙げ句の果てに授業料が一切かからないどころかお金が貰えるって知ったら、有無も言わさずこの学園に放り出した。……どこが育てられるだよな?」  一樹の根底にある怒り、悲しみ、憎しみが初めてちゃんとわかった気がした。 「咲希、誰が咲希の事を一番可愛がってた? 誰が咲希の勉強を褒めて、誰がお古ばかりだった咲希に文房具を買ってあげた?」  そんなの決まってる。 「……一樹」  囁くように答えれば、一樹は嬉しそうに微笑んだ。 「そうだろう? 咲希の事を一番に考えてるのは僕だけだ。咲希を幸せにしてあげるために頑張ったんだよ? お祖父様に全てを聞いてから、長い間たくさん努力して城之内の次期当主の座を勝ち取ったんだ。全部咲希のためにね」  ーーああ……。  全てが繋がった。事の顛末はあまりに勝手で、そして悲しくて。もう言葉も見つからなかった。
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