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何も言えない咲希に代わるように、慧が一歩前に出た。咲希の隣に並んで、いつの間にか握りしめていた手を包むようにとる。
「咲希から手を離してもらえるかな」
「いい加減妹離れしたらどうですか」
一樹が表情を変えたのにも間髪入れずに応戦した。
「君には関係ないだろ? 兄妹の問題だ」
「兄弟の問題だって言うなら目の前に本当の兄弟がいるじゃないですか」
「……喧嘩を売るのが上手くなったね」
「どうも」
手の力は言葉と共に更に強くなる。絶対離さないから大丈夫だ、そう言われているようで安心する。気づかないうちに詰めていた息をそっと吐き出した。
「一樹、私は絶対戻らないよ」
いつまでも庇われてはいられない。真っ直ぐ一樹を見つめて断言する。
「咲希」
「ここで皆と卒業する。卒業してからも一樹とは住めないし、勿論お祖父さんの所にも行かない」
「昔はお兄ちゃんの言う事をちゃんと聞けるいい子だったのに、聞き分けが悪くなったね」
「もう一樹がここに入学する前の幼稚園児じゃないの。私、もうすぐ二十歳だよ?」
「わかってるよ」
「わかってない!」
やっとわかった。一樹が欲しかった物が。私に執着する理由が。
「咲希、もう一度だけ言うよ? 戻ろう。こっちにおいで」
「……嫌」
「今なら許してあげるよ」
「嫌」
年は七つも上なのに一樹の方が駄々っ子みたいだ。
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