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「咲希、我儘を言わないでくれ。わかってるかな、尚人と心菜はまだ在学してるんだよ? どうなるかな?」
「おいっ一樹!」
「……一樹」
脅して、閉じ込めて。酷い事はたくさんするけれど、絶対に私が傷つくような事はしない。
「尚人と心菜に何かしたら許さないから」
「……何で庇うのかわからないな。そいつらが咲希に何かしてくれた? 心菜なんて強請る事くらいしかしなかっただろ?」
「兄弟に見返りなんて求めないし、心菜は甘えてるだけ! 一樹に心菜を悪く言う権利なんてないでしょ⁉︎」
それは私の事が好きだからじゃない。嫌われるのが、一人になるのが怖いんだ。
「僕に着いてくればたくさんのお金も権力も手に入る。何も我慢しなくていい生活が待ってるんだよ?」
「そんなのいらない。皆と一緒じゃなきゃ意味がないから」
「咲希、あんな所に帰ったって誰も咲希を一番には考えてくれないよ? こちらに来るんだ」
理不尽に引き取られて、でも大事にはされなくて。心は寂しがりな子供のまま体だけ大人になってしまった。
誰も何も言わなかった。慧も、尚人も、城之内も。嫌な静けさだけど張り詰めた空気とはどこか違う。寂しくて物悲しい沈黙だ。
慧の手を握る力を強めてから小さく息を吸い込んだ。
「一樹、いい加減にして。現実を見てよ! 確かに両親は尚人と心菜にべったりだった! 一樹と私が一番放ったらかしにされてた! でもいつまでもうじうじしてても何も始まらないの!」
「咲希……」
尚人が驚いたようにこちらを見るけれど、止まらない。
「私には私を大切に想ってくれる人ができたし、一樹にだってそういう人がいるの! わかってるでしょ⁉︎ なのに何でずっと後ろばかり見てるの!」
捲し立てるように言いたい事を言い切った。
一樹も驚いたように一瞬動きを止めた。だけどすぐに表情を歪ませる。
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