二、

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「あの人はお前を正式な跡取りにする気なんてないよ。ただの繋ぎだ。本当に跡取りに選ばれたのはお姫様だよ」 「は……」  漏れたのは一樹らしからぬ声だった。信じられないというより、言われた事を一度では理解できないというような乾いた音。 「何を根拠に……」  呆然とする一樹に、城之内は意地悪く笑いかけた。 「何故俺達が理事長室に忍び込んだと思う? あの人の計画を全て知るためだ。しっかり書かれてたよ、国に未来はない、ここを国にして自分が国家元首になり、ゆくゆくはこいつを跡取りにするってさ」 「そんなわけない! お祖父様は俺の努力を認めてくださった! 跡を継いだあかつきには咲希の将来を任せるって約束だって」 「それなら証拠でも見せようか? データをコピーした物もあるし俺はあの人からはっきり聞いたけどね」  何が面白いのか、城之内は感情を露わにする一樹を尚もせせら笑う。一樹は他の生徒の顔を見回して、その表情に真実を悟ったらしい。 「嘘だ……」  呆然と呟いた。 「だって、それなら僕は何のために……」 「一樹」 「おい、一樹……」 「十五年だぞ……? 跡取りになれば金も権力も手に入るって、咲希とずっと一緒にいれるって、約束したんだ」  十五年。それは一樹がネデナ学園に入学してからの時間だ。そんなに長い時間、祖父の言葉を信じて城之内と跡取りの座を争ってきた。  一樹のやり方は間違っていたと思うけど、それでもあまりに酷い。尚人と共に兄の名前を呼ぶ事しか出来なかった。 「あの人がそんなの守るタチかよ」  それをも一刀両断したのはやはり城之内だ。 「あの人に人の心なんて物はない。自分が正しいと思ってるし、自分の理想を実現するためなら何だってする。だから俺達の事なんて造作なく切り捨てられるし、そのせいで母さんだって死んだんだ」 「何、を」
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