二、

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「俺達の母親はあの人に殺されたようなもんだよ。理想を押し付けられて閉じ込められて、追い詰められて死んでいった。今度はお前が同じ事をこのお姫様にやろうとしてるみたいだけどな」 「そんな……」  一樹はそれ以上何も言えずに、口を開けたまま立ち尽くした。 「一樹……」  何て声をかければいいのか言葉が見つからない。さっきまで沸いていた怒りと少しの恐怖は、あっという間に引いてしまった。  こんな顔をした兄を見放せるわけがない。両親の愛情が弟妹にばかり向いて寂しかった時、いつだって可愛がってくれたのは一樹だ。やっぱり嫌いになんてなれるわけがない。  繋いでいた手をそっと解いて、ポケットに入れた。触れるのは慣れ親しんだ冷たい感触だ。 「ねえ一樹」 「……何」  こんな時でも自分の声掛けには返してくれる。そんな事にも笑ってしまう。 「確かに両親もお祖父さんも勝手だよ。一樹が怒るのは当然だし、私も酷いと思う」 「だからな」 「でもね! 一樹がやってる事も同じ! 相手の事は考えないでただ自分のやりたいようにやって! 一樹と同じように傷つく人を作ってるだけ!」  一樹の言葉を遮って、更に捲し立てた。 「私だけじゃないよ、まどかお姉さんの事もそう! それに尚人達の事だってそう! 尚人達が一樹に何かした⁉︎ 両親から可愛がられてたってだけで一方的に毛嫌いして、避けて利用もして!」 「咲希……」
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