二、

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「……咲希、何を言ってるかわかってるの? そんな簡単にできる事じゃないんだよ」  やっと口を開いたと思えば、一樹の声は消え入りそうなくらい小さかった。 「それくらいわかってるよ」 「上に立つ事がどれだけ大変かわかる?」 「これでも入学からずっとSランクだったんだよ? まあランク落ちしそうな時、お祖父さんが操作したらしいけど」 「すごくすごく大変なんだよ?」  最後の抵抗。まるでイヤイヤ期の子供。でも、根底にある物はわかった。   「一樹、私はもう一樹に守ってもらわなきゃいけない子供じゃないの。助けてくれる人もたくさんいる」  断言すると、一樹は再び目を伏せた。 「……咲希はどうしたい?」  そんなの決まってる。 「学園に戻って皆と卒業したい。将来だって自分で決める。一樹の言いなりにもお祖父さんの言いなりにもならない。でも……家族でいたいよ」 「本当の兄妹じゃないのに?」 「そんなの関係ない! 小さい頃、いつも褒めてくれて可愛がってくれたのは一樹でしょ⁉︎ 皆に置いてきぼりにされた時だって一樹が守ってくれた! 血や戸籍がちょっと違うだけで全部違っちゃうの? 一樹は私の事好きじゃなくなるの⁉︎」 「そんなわけない! そうじゃないけど……」 「本当は従兄弟だけど兄妹でいいじゃん。ずっと辛い過去に縛られてないで、そろそろ前に進もうよ」  お願い、一樹。  おねだりなんて久しぶりだ。思えば、ネデナ学園に入学する前は一樹にしかおねだり出来なかった。両親は尚人と心菜にべったりだったし、家には余裕がない事もわかってた。わかっていても辛い事や寂しい事も多くて、そういう時は一樹にねだって近くの公園に連れて行ってもらった。たまにジュースを買ってもらう事もあったし、内緒で駄菓子屋さんにも連れて行ってもらう事もあった。  一樹は何でもお願いを叶えてくれた。私にとって、誰よりも優しいスーパーマンだった。  一樹が私のお願いを断った事なんて一度もなかった。 「……ああ……」  返事はそれだけだった。だけど長く止まっていた時間がようやく動き出した瞬間だった。
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