三、

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三、

 屋上には本当に立派なヘリコプターが停まっていた。一樹が乗ってきた時に操縦していた操縦士もいたけれど、それは一樹が一言二言何か言って簡単に降ろしてしまった。  一樹が操縦席に座ると、自然な流れで秀樹が副操縦席に座る。そして二人して機械をいじって、あっという間に飛び立った。  向かう先は咲希達にとっては二年半ぶりの、尚人と心菜にとっては入学以来の外の世界だ。 「わぁっ……」 「何か変な感じするな」  最初に眼下に広がるのは広大な海と山。その奥にはたくさんの家やビルが並ぶ街並みも見える。二人は興味津々で窓にへばりついた。  ヘリコプターはどんどん街並みの方へと向かっていく。最初は平屋や田畑、あっても三階建てくらいの学校や病院、アパートだった。それが高速道路の上を越えた辺りからマンションやビルが点在するようになった。  ネデナ学園はどれだけ最新設備を備えていても、一番高い施設でも五階まで。高層ビルなんて久しぶりだ。 「すごーい!」 「うわ……外ってこんな感じだっけか」  眼下にそびえる高層ビルはどんどん増えていき、やがて高層ビルの方が多くなった。無言で操縦していた一樹が口を開いたのはそんな中だった。 「あそこだ」  一樹の視線の先にそびえたつのは一際高いガラス張りの建物だ。一番上には咲希ですら知っている世界有数の高級ホテルのロゴが掲げられている。 「あの三十五階でパーティーが開催されてる。日本の有名企業の社長や有力な政治家はほとんどが招待されているしマスコミも来てるよ」  ーーあんな所で。  昔なら一生縁がなさそうな高級ホテルに、驚くと同時に改めて祖父の財力を思い知らされる。  ーー絶対に終わらせる。  決意を込めてあと少しの距離まで近づいたビルをもう一度見やると、座席に置いた右手に大きな手が乗せられた。
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