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「尚人か?」
「ああ」
「うん、それに心菜もいるよ! あと一樹も!」
「はあ?」
一樹と心菜。その名前に康介の声は怪訝そうなものへと変わる。
「何してる」
短い言葉は敵意に満ちていて、誰に向けられているのかすぐにわかった。
「……兄が妹といるのが悪い事かな?」
「いい加減にしろ。今まで咲希をどこにやってた」
「お前に言う必要はないだろ? お前と同じように自分の領域で大切にしまいこんでただけだよ」
「てめえ……咲希、慧、すぐにそっちから出る方法を探して出て来い」
まさに一触即発。二人が直接言葉を交わすなんて多分一樹の卒業ぶりだ。それなのにこの調子。
だけど今ならわかる。
一つ違いで一緒に過ごした時間も一番長い康介が、一樹の扱いが他と違う事に気が付かないわけがない。多分一樹が本当の兄弟でない事にも気づいていた。気づいた上で私達に何も言わなかった。そして一樹もきっとそれに気づいていた。
「康介! 私は元気にしてたから話を聞いて! 一樹もやめてよ!」
だからこれ以上こじれさせたらダメだと思う。
磨りガラスの先の黒と、仮面のような笑みを浮かべる一樹とを交互に見つめると、二人は同時に折れてくれた。
「……わかった」
その言葉はピタリと重なった。
こんな時だというのに笑いそうになったけど、ゆっくりしている時間はない。
「実は……」
慧と交互に今までの出来事を搔い摘みながら話す。
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