三、

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「尚人か?」 「ああ」 「うん、それに心菜もいるよ! あと一樹も!」 「はあ?」  一樹と心菜。その名前に康介の声は怪訝そうなものへと変わる。 「何してる」  短い言葉は敵意に満ちていて、誰に向けられているのかすぐにわかった。 「……兄が妹といるのが悪い事かな?」 「いい加減にしろ。今まで咲希をどこにやってた」 「お前に言う必要はないだろ? お前と同じように自分の領域で大切にしまいこんでただけだよ」 「てめえ……咲希、慧、すぐにそっちから出る方法を探して出て来い」  まさに一触即発。二人が直接言葉を交わすなんて多分一樹の卒業ぶりだ。それなのにこの調子。  だけど今ならわかる。  一つ違いで一緒に過ごした時間も一番長い康介が、一樹の扱いが他と違う事に気が付かないわけがない。多分一樹が本当の兄弟でない事にも気づいていた。気づいた上で私達に何も言わなかった。そして一樹もきっとそれに気づいていた。 「康介! 私は元気にしてたから話を聞いて! 一樹もやめてよ!」  だからこれ以上こじれさせたらダメだと思う。  磨りガラスの先の黒と、仮面のような笑みを浮かべる一樹とを交互に見つめると、二人は同時に折れてくれた。 「……わかった」  その言葉はピタリと重なった。  こんな時だというのに笑いそうになったけど、ゆっくりしている時間はない。 「実は……」  慧と交互に今までの出来事を搔い摘みながら話す。  
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