絶対不可侵領域

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今日は昼間予定ない。 昨日の流れで朝までオールで遊び回る予定だったので、敢えて空けていたのだが……まあ、こんな調子じゃ休んでた方がいいだろう。 夜まで暇だとはいえ、アツと二人きりは流石にバツが悪い。状況が状況だから、余計。 取り敢えず舌の乾きを潤すためにリビングに降りて飲み物を探っていた。 そして炭酸ジュースのボトルを手を伸ばしたときだ、いきなり背後から伸びてきた手にドリンクごと握られた。 濡れた手の感触に驚いて振り返れば、そこには風呂上がりのアツがいた。 濡れた髪のせいか、まるで他人のようにすら思え、一瞬本当に驚いた。 「っ、……アツ……」 「それ、俺のなんだけど」 「悪い、気付かなくて……じゃあ、俺はやっぱりこっちを貰おうかな」 ドキドキする心臓を必死に抑えながら、俺は誤魔化すように隣の牛乳パックに手を伸ばそうとするが、重ねられた掌に指を絡められ、体が固まる。 「あの、アツ……手……」 「お前、少し縮んだんじゃねえの」 耳元で囁かれる。指と指のその谷間を撫でられ、ぞわりと腹の底から熱が込み上げてくる。 やばい……この流れは、身に覚えがある。 逃げなければ。 そう思うが。 「アツ……手、離し……ッんん……ッ」 拒むよりも先に、唇を塞がれる。 太い舌に絡められ、愛撫するかのように舌同士を擦り合わされれば頭の中で火花が散るみたいに熱くなって。 離れようとするが、手をぎゅっと握り締められ、敵わない。冷蔵庫、その扉に押し付けられるようにキスをされる。頭が痛いとか、二日酔いとか、酒の匂いとか、そんなもの気にする暇すら与えられない。 「ぁ、ふ、ぅ、んん……ッ」 胸元、伸びてきた片方の手にシャツの上からぐりぐりと乳首を摘まれれば心臓の辺りがじわりと熱くなる。だめだ、とアツの胸板を叩くけれど、思いの外力が出ない。アツは躊躇なくその硬い指先で突起を転がす。こんな厭らしい触り方、されたことがないはずなのに、知ってる。身に憶えのない得体の知れない感覚がこみ上げてきて、混乱した。 「っ、ァ、ダメだ、だめ、アツ、ダメだって……ッ」 「女みてぇな声……そんなんでよく女抱けたな」 「ッ、ぁ、やッ、ぁ……アツ……ッ」 背中を丸め、なるべくアツの手から逃げようとすればぐっと腰を抱かれ、胸を仰け反らせられる。容赦のないその言葉が心臓に突き刺さる。 できることなら、俺だって我慢したい。けれど、アツに触られてるだけで全身の筋肉が弛緩し、声が漏れるのだ。それこそまるでこの体が俺のものじゃないみたいに。 「……感じ過ぎ」 そう、胸元に顔を寄せるアツ。その口から赤い舌が覗いたと同時に、シャツの下から主張し始めるそこを舐められ、ぞわりと背筋が震えた。 「っん、ひ、ィ……ッ」 腰が震える。逃げようとすればするほど強く抱き締められ、硬くなったそこに歯を立てられる。甘く噛まれ、シャツが張り付くほど舌で嬲られ、吸われる。擽ったい、どころではなかった。違和感。それ以上の、甘い熱が全身へ巡る。夢中になって胸をしゃぶるアツに、ただ恥ずかしくなって、それ以上に、満更でもない自分が、怖くて。 熱が溜まる下半身。膨らみ始めたそこを擦るように腰を押し付けられる。アツも、興奮してるのが分かった。昼下がりのリビング。誰もいないとはいえ、普段ならば家族が団欒するそこでこんなことをしてる自分たちがただ浅ましくすら思えて、恥ずかしかった。 「アツ……っ、や、めろ、本当……これ以上は……ッぁ……」 「……うるせえな。今更真人間ぶってんじゃねーよ」 ぎゅっと片方の突起を抓られた瞬間、声にならない声が漏れる。咄嗟に口を覆うが、遅かった。指先、固く凝り始めたそこを執拗に転がされれば息が漏れる。思考が鈍る。何も考えられなくなった。 執拗に体を弄られ、まともに立つこともできず、床の上、座り込む俺に、アツは冷蔵庫からボトルを取り出した。さっきの炭酸ジュースだ。 それを手にしたまま、アツは俺の顔を覗き込むように座り込む。そして。 「喉乾いたんだろ?……口、開けろよ」 中学のときのときとは違う。すっかりと声変わりしたその声は、甘く脳髄まで響く。命じられ、何も考えられなかった。無意識に口を開けば、ボトルのジュースを一口飲んだアツはそのまま俺に口付けをする。 「っぅ、あ……んく……ッ」 薄く開いた口から、アツの体温を孕んだ炭酸ジュースが流れ込んでくる。瞬間、広がる濃厚なブドウの味と甘ったるいほどの炭酸。こんな状況でジュースを味わうことができる図太い人間がいるならば是非、紹介してほしい。何度も角度を変え、舌ごと押し流されるジュースは時折唇の端から零れ落ちる。それも構わず、何度もアツは俺にジュースを口移しで飲ませた。 「っ、は、ぁ……ッ」 抵抗する気すら失せていた。 顎先へと滴るジュースごと顔を舐められ、体がびくりと震える。 後退ればすぐに壁際まで追い詰められる。見詰め合うのも数秒、今度は普通のキスをされる。 こんなにキスしたら唇がふやけてしまうんじゃねーのというレベルのキス魔に、俺は、正直恐怖していた。自分の弟でありながら、俺の知ってるアツとは違う。明らかに、慣れている。舌の動かし方、どうすれば苦しくならないか、咥内のどこが一番感じるのか、アツのそれは明らかに把握してるものだった。 これ以上は、本当に、シャレにならない。お互いに酒も入っていない状況、誤魔化しようがないのだ。 「アツ……も、やめろ……っ、あのときは、俺が悪かったから……っ、やめよ、も……なぁ……ッ」 アツは、怒ってるのだろう。俺がアツから逃げたことを。だからこそ、謝った。正直、俺は然程重要視していなかった。ちょっとした悪ふざけの延長線だと思っていたからだ。けれど、逆の立場だったら。わけのわからぬまま翻弄されるのはとてもじゃないが、耐えられない。それをアツにしてきたのだと思うと、謝罪が出た。 けれど、アツの反応は俺が思っていたものと正反対だった。その眉がぴくりと反応する。 「……また、逃げるつもりかよ」 その目に浮かぶそれは憎悪にも似たどす黒い黒い炎で。 「立てよ」と、乱暴に腕を掴まれ、引き上げられる。 「っつぅ……ッ」 どん、と突き飛ばされたかと思えば背後にはテーブルの感触がした。近づくその手に反応するよりも先に、テーブルの上に押し倒される。血の気が引いた。 「ぁ、アツ……」 「自分勝手だよなぁ。本当……昔からそうだよアンタは。……俺の気持ちなんか全く考えず、俺をダメにして、他に体のいい玩具見つけたら捨てていく」 「俺は、アンタしかいなかった、ずっと、それなのに……アンタにとって俺はたくさんの玩具の中の一つでしかなかったわけだ」こんなにも饒舌なアツを今まで見たことがあっただろうか。けれど、吐き出される言葉は痛々しく、その棘に心臓がチクチクと痛んだ。 俺のせいだ。そうアツは澱みなく言い放つ。 何も言い返せなくなる。俺は、アツから手を離した。アツがしたいなら、そう思うと、させてあげたくなるのだ。罪悪感、同情心、どの言葉を選んでもしっくりこない。抵抗をやめる俺に、アツは小さく舌打ちをすした。そして、乱暴に俺の下腹部に手を伸ばす。 「……今更なんだよ、その面」 骨ばった手に腿を撫で上げられ、腰が震える。逃げ出したい気持ちを堪え、口を塞ぐ。今までの分の罪滅ぼしだ、そう思うと、耐えられるような気がした。……気がしただけだった。 腿を這うその指は徐に背後へと回り、そして、スウェットのウエストのゴムを引っぱるように滑り込んでくる。そのまま人のケツを覆うように這わされる無骨な掌に、身が竦む。 「待っ、おい、アツ……ッ」 「待たねえ」 「ぅ、んん……ッ!」 左右の尻たぶを揉みくちゃにされ、谷間を広げるように左右に押し広げられ、そして、叩かれる。まさに好き勝手人の体を触るアツに恥ずかしさが込み上げてくる。が、すぐにそれどころではなくなる。 「……っ、はぁ……ックソ……」 苛ついたように吐き捨てるアツ。そして、スウェットごと下着を脱がされ、青褪める。 「っ、ぁ、や、め……っ!」 「実の弟に欲情してたド変態が今更一人だけまとも振ろうったって許さねえから」 慌てて下着に手を伸ばすが、アツはそれを読んでか、爪先から下着を引き抜き、床の上へと捨てる。 スースーする下半身、力いっぱい足を広げられ息を飲んだ。 「……アンタのせいで全部滅茶苦茶になったんだよ、責任取れよ、クソ兄貴」 炭酸ジュースのボトルを手にしたアツは、そう、凶悪な笑みを浮かべた。
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