絶対不可侵領域

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記憶を飛ばせたら逸そのことどれだけ楽だろうか。 そう思うが、アルコールが入っていない脳みそはちゃんと機能してくれてるようだ。アツに舐められた感触も指の感触も息遣いも全て明確に記憶してる。 昼間からアツに押し倒され、そして、ようやく解放されたと思えば日が暮れていた。 部屋の中、天井のシミを数えていた。体が熱い。アツは、「出掛けてくる」とだけ言い残して家を出ていった。 残された俺は、今この屋根の下にアツがいないことにホッとしていた。 俺にはアツが何考えてるか分からない。 抱かれてるようなものだ、こんなの。挿入すらしなかったが、それでも、触り方がただの嫌がらせやそれとは違うのだ。荒い手つきではあるもののその中には存在を確かめるような、そんな意図も感じられた。 帰ろうと思えば、今夜にでもこの家を出ていくことは可能だ。母親にはまた小言を言われるだろうが、逃げ場はある。 けれどそれではまた、あのときの二の舞いではないだろうか。ちゃんとアツとは話をしなければならないということは頭では理解してるつもりだけど、今は正直あいつの顔を見たくないというのが本音だった。 取り敢えず、今日はゆっくりしよう。そう思って思考放棄したのが悪かった。 アツの態度は落ち着くどころかエスカレートする。それでこそ高校のときのように、夜になれば俺の部屋に上がり込んでくるのだ。恋人のようにキスをし、抱き締められる。 なによりも、アツの方が腕力があるという事実。逃げることも出来ず、追い込まれる。 体には触れられるがまだ一線は越えていない。 けれどそれも時間の問題だろうという意識はあった。 俺は、また逃げることを選ぶ。このままでは本当に俺の貞操が危ない。 そう決めた日のことだ。 携帯に、メッセージが入る。 椎名だ。高校時代の親友、椎名から連絡が入っていた。内容はまた会えないかという内容だ。 椎名とはこの間の飲み会ぶりだった。 俺は二つ返事でそれを受けることにする。 そして、俺は椎名と駅前の適当な飲み屋で待ち合わせをすることになった。 炎天下。劈くようなセミの声。アスファルトから湧き上がる熱を踏みしめ、俺は待ち合わせ場所へと来ていた。 椎名はすでにいた。 名前を呼べば、椎名はこちらを振り返り、手を上げる。 「よぉ、この前ぶり」 「あぁ、そうだな」 こうして二人で会うのは久し振りかもしれない。なんだかんだいつも椎名と集まるときは誰かしらがいただけに、サシで飲むのが新鮮で仕方なかった。
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