絶対不可侵領域

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酒のせいにするにしても、度が過ぎてる。 悪い冗談だとしても、同じく。 「い、いい……ッいらねえ、このままでいい、つか、帰る……から……も……っ」 離せよ、と絡みついてくる手を振り払おうとすれば、より強い力で手首を掴まれ、抱き寄せられる。 「帰らせるかよ」 自分の服が汚れることも構わず、俺を膝の上へと座らせようとする椎名。その手が服を脱がそうとしてくるのを見て、咄嗟に俺は椎名の手を掴んだ。 「……や、め……ッ」 やめろ、そう言い掛けたのと服が大きくたくし上げられるのはほぼ同時だった。 腹部から胸元に掛けて、照明の下で照らされる体に血の気が引く。 いくつもの鬱血痕が残ったその上半身、それをよりによって一番見せたくなかった相手に見られてる。 「……なんだよ、これ……」 呆れたような声。背中越しに椎名が固唾を飲むのが伝わり、余計、逃げ出したい気持ちになる。けれど、固定された手首はびくともしない。椎名の眼下から逃げ出すことも出来ず身じろぐ俺に、椎名は鬱血痕をなぞるように指を這わせた。 「すっげー、えぐいよお前……よくこんなもん付けて俺に会いにこれたよな。……逆に尊敬するわ」 「っ、見るな……馬鹿……ッ」 「見るなって方が無理だろ、こんな至るところに付けておいて」 「……ッ、触る、な……」 見られたくなくて背中が丸くなる。けれど、それもすぐに椎名に腕を引っ張られ、無理やり逸らされた。マジマジと眺める椎名の視線がチクチクと肌に突き刺さるようだった。 濃厚なアルコールの臭気。椎名の手が、不意に止まる。「こんだけ触らせておいて、何言ってんだよ」そう、笑うような冷ややかな視線に背筋に冷たい汗が流れる。 「……最悪だよ、本当……俺がどんな気持ちでいるか知ってんのかよ、この痕、なあ……亘、他のやつに抱かれてよく俺に顔見せれたよな……すげーよお前」 「っし、……ん、ぅ……ッ」 顎を掴まれ、無理矢理椎名の方を向かされた。薄暗い店内。至近距離にも関わらず、陰がかった椎名の表情はよく見えなかった。それでもきっとあまりいい顔をしていないであろうことはその声音から汲み取ることはできた。 体を弄っていた椎名の手が、腹部、その臍の窪み部分をすっとなぞるように下へと落ちていく。恥骨付近、そこに滲んだ痕の上で指の動きは止まった。 「こんなところまで痕つけさせて、俺は嫌だってのは不公平だろ……なあ、亘」 体が震える。ベルトを緩め、そのまま下着の中へと滑り込もうとする椎名の手に、体が竦んだ。「やめろ、椎名」と声を荒げるも、すぐに唇を塞がれる。 「ッ、ふ、ぅう……ッ」 穴という穴からアルコールが流れ込んでくるような酒臭さだった。目の前が霞む。太い舌で舌を嬲られるだけで、条件反射で腰が震えた。腰を抱かれ、足を開かされる。朦朧とする意識の中、下腹部を弄る椎名の手に下着越しに性器を揉まれ、堪らず息を洩らす。 流石に勃起はしていないが、それでも構わず、生々しい手付きで強弱つけてそこを刺激されれば、その気がなくても反応してしまうわけで。膨らみ始めてるそこを握り込まれ、頭の中の芯がジンと熱くなった。 肩越しに見る照明には、見覚えがあった。多分、だからそのせいで俺は錯覚したのだろう。昨夜と、今を。 離れた唇、息を吐くように、俺は「アツ」とあいつの名前を口にした。無意識だった。 「……………………は?」 椎名の表情が凍りつくのを見て、血の気が引く。 俺は今一体何を口走ったのか。 見開かれた目。すぐに、その表情は消える。見たことのない、険しい顔。その目に、嫌な汗がだくだくと溢れ出した。 「っ、お前……いま、なんつった?」 「違、ぁ、俺、ちがくて……」 「違うって、なんだよ……今の、まじかよ……」 四文字で表すならドン引き。侮蔑の色を孕んだその声に、言葉に、バクバクと心臓の音がより大きくなる。 「っは、はは……亘、お前、実の弟とヤりまくってんのかよ……冗談だろ?」 「お前、マジで最低だよ」耳元で吐き捨てられる言葉に、頭の中が真っ白になった。 体が、声が、震える。 逃げ出したかった、今すぐにでも。けれど、椎名は俺を逃がすつもりはないらしい。股の間に差し込まれた膝の頭により、強制的に開脚させられた股ぐら。ボクサーパンツの裾の隙間から差し込まれる指に、体が反応する。 「ち、が……違ぁ……ッ」 「……何が違うんだよ、ド変態のくせに、俺のが全然ましだろ、男同士で、よりによって、兄弟で……」 「なぁ、亘」と、呼ばれる。太い指先は最奥、その窪みに捩じ込まれ、堪らず声が漏れた。 「……ぁ、あ゛、ァ……ッ」 「ッ、ここに、弟のチンポハメまくってんだろ?……なぁ、気持ちよかったか?性欲盛りの高校生とヤんのはさ?」 アツにしか触れられたことのない中を無遠慮な指に嬲られる。不快感と違和感しかないなずなのに、浅い場所を指先でぐりぐりと押されると体が自分のものではなくなったみたいに反応する。喉奥から、自分のものとは思えないような甘い声が溢れ、椎名が笑うのがわかった。顔が、耳までもが熱くなる。呂律が回らない。力が、入らない。 「ッ、しいな……っ、ゆび、抜い……ッ、ひ……抜い……てっ……!!」 これ以上は、嫌だ。本当に、駄目だ。 熱に当てられた頭の中、アツの顔が過る。アツの感触が上塗りされるみたいに快感が襲いかかってきて、やがて思考ごと塗りつぶされるのだ。 絶妙な強弱を付けて擦られる内部、椎名の指が、その関節が内壁を擦れる度にアツとの行為で腫れ上がっていたそこに刺激が走り、目の前が赤く点灯する。開いた口は閉じることもできなかった。指の動きに合わせて唾液と声が漏れる。腰がガクガクと震え、いつの間にか下着の中は先走りで濡れていて、下着の中で響く水音が余計煩く響いた。お互いの息が混ざり合う。お洒落なBGMも聞こえなかった。何度目かのキスをされ、そのまま俺は椎名にケツでイカされる。手足に力が入らず、姿勢を保つこともできなかった。「案外早かったな」なんてぐちゃぐちゃになった下着を脱がせようとしてくる椎名。朦朧とする意識の中、ソファーの上に寝かされる。そして、大きく足を開き、先程まで散々弄くられたそこを大きく開かれた。 「……ぁ……、ぁ、やめ……ッ!」 「……弟なんかやめとけ」 「……っ、し……いな……」 片手で自分のベルトを緩める椎名に、息を飲む。逃げないと、そう思うのに、気だるい体は指一本動かないのだ。 「俺にしとけよ、亘」そう、自分の唇を舐める椎名に、充てがわれるそれに、息を飲む。 こんな風にアツ以外の男のものを感じたことはなかった。軽く持ち上げられた腰。体の中に亀頭部分が埋め込まれるその感触に、熱に、頭の中が真っ白に塗りつぶされる。
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