前編

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渡利の情報を手に入れるのには、然程時間は要しなかった。 渡利敦郎、十七歳。 中学の頃に性格が原因でいじめられ、キレた渡利がいじめていた生徒を病院送りにする。 それがきっかけでいじめはなくなるが、周りは腫れ物のように扱っているらしい。 前からあまり素行はよくなかったが、そのときから頻繁に喧嘩をするようになり何回も警察のお世話になっているようだ。 極度の短気で、ヒステリー。 馬淵とは小さい頃からの幼馴染みらしく、渡利にとって唯一の友人らしい。 友人たちから聞いた話を頭の中でまとめながら俺は少し考え込む。 思っていたよりも難儀な問題になりそうだ。 やつの性格を考える限り派手な喧嘩を起こして逮捕させればいいのだが、聞く限り渡利の素行の悪さは校内でも有名らしく、喧嘩を売りたがるようなやつはいないらしい。 俺自身が渡利に喧嘩を売るというのも考えたが、そんなことしたら間違いなく俺は病院どころじゃ済まなくなるだろう。 馬淵に手を出した今、いつ渡利がけしかけてきてもおかしくない。 生憎、俺はまだ生きていたい。 じゃあ、どうしようか。 自宅自室内。 一人悶々と考えながら、俺はいつも通り来ていたメールに返信をする。 渡利にその気があるのなら、無理矢理にでも馬淵とくっつけてさっさと久保田から離れさせたいが、正直今の段階で渡利の性癖は判断できなかった。 いや、それもいいかもしれない。 馬淵が渡利に気があると吹き込んで仲違いさせ、馬淵から手を引かせる。 そして馬淵は数少ない友人にまで見捨てられ、めでたしめでたし。 想像していたよりもいいかもしれない。 渡利に嫌われたときの馬淵の顔を想像しながら俺は一人笑みを浮かべた。 翌日。 いつも通り久保田と一緒に登校する。 邪魔もいたが、なかなか充実した時間だった。 不良たちがいなくなったお加減か、ここ数日馬淵の調子が良さそうに感じた。 精々残り僅かな安息の時間を暢気に過ごせばいい。 もたもたとついてくる馬淵を尻目に、俺はそう口許を歪める。 馬淵が渡利に気があるという噂を校内に流すのはあまり難しい話ではなかった。 噂好きの女子に声をかければすぐにその作り話は辺りに広まる。 時間が経つにつれ、『馬淵が渡利に気がある』という噂に尾ひれはひれがつき『渡利が馬淵を脅して性欲処理に使っている』だとか過激なものになっていった。 どこでそんなに話がでかくなったんだよと呆れる反面、愉快で愉快で仕方なかった。 放課後。 いつものように久保田の教室まで行けば、そこに久保田はいなかった。 「ああ、久保田ならさっき保健室行ってたの見たよ」 久保田のクラスメートの女子にそう聞いた俺は、そのまま保健室へと向かう。 なんで久保田が保健室に行ったのだろうか。 もしかしてなにか怪我でもしたのだろうか。 怪我して入院なことになったら毎日会えなくなってしまうんじゃないのだろうか。 保健室に向かう途中、そんなことばかりを考えて気が気でなかった。 焦りからか自然と足が早くなる。 部活動に向かう生徒や帰宅する生徒たちに混じって廊下を歩いた。 俺が保健室につくまで、あまり時間はかからなかった。
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