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俺が久保田と付き合う?
付き合うって、好き合ってセックスしたりするということか。
正直、どうやったらそういう発想ができるのかがわからなかった。
確かに久保田のことは好きだが、そういう感情ではないと自分でわかっている。
わかっているが、自分と久保田がそういうことをしているのを想像してしまい、鼓動が跳ね上がるのがわかった。
有り得ない。
馬淵と俺は違う。
久保田をそんな目で見るなんてできない。
久保田は女とは違う。
俺の、親友だ。
そう自分に言い聞かせるが、胸の鼓動は治まらず、じわじわと顔に熱が集まるのがわかった。
なにより、信頼し合っている俺たちがそういうふしだらな関係と間違われることが悔しくて恥ずかしくてムカついて仕方がない。
全身に変な汗が滲む。
今すぐ扉を開いて馬淵に殴りかかりたかったが、なんでだろうか。
久保田の反応が気になって、俺はその場から動けなかった。
「……俺が、古屋と?」
虚を突かれた久保田は、呆れたような顔をしてすぐに可笑しそうに笑う。
「ないない、有り得ねーって。変なこと言うなよ、馬淵」
「心臓に悪いだろ」そう肩を揺らして笑う久保田の一言一言に、心臓が握り潰されそうになった。
そうだ、久保田の反応が正常だ。
自分がそうだからといって、友情と恋愛感情を履き違える馬淵の思考がおかしい。
久保田は間違っていない。
間違っていないはずなのに、どうしてだろうか。
酷くショックを受けている自分がいた。
「……そうだよね。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
そう申し訳なさそうにする馬淵の声は、どこか安堵したように聞こえた。
「いいっていいって!」そう笑う久保田は、馬淵がいるであろう場所へ歩いていく。
隙間から久保田の姿が見えなくなった。
「ほら、そろそろ帰ろうぜ。立てるか?」
「うん、なんとか……痛っ」
「おわっ!おい、大丈夫かよ」
「大丈夫、じゃない」
「ははっ、だろうな。ほら、肩貸すから掴めって」
隙間からは姿は見えず、どこか楽しげな二人の声が聞こえてくる。
どうやら捻った馬淵の足が再び痛み出したようだ。
「え、でも……」それを支えようとしている久保田に、馬淵は困惑する。
それでも、本気で嫌がっているわけではなさそうだった。
「いてーんだろ?無理すんなよ」
「でも、僕……」
「ん?」
「そういう風にされると、勘違いしちゃうから」
「勘違い?」
「く……久保田君が、僕のこと満更でもないって」
そうもじもじと恥ずかしがる馬淵に、久保田は「ああ、そういうことか」と納得する。
「嫌なら無理にさせないけど、馬淵さえよかったらいつでも頼ってくれていいんだからな」
「……気持ち悪くない?」
「またそういうこと言う」
「……ごめん」
「でも、ありがとう」怒る久保田に、馬淵は嬉しそうに呟いた。
なんだ、これ。
なんだこれ
なんだこの空気。
吐き気がする。
「じゃあ、階段上がるところまでいいかな」
そう申し訳なさそうにしながらもちゃっかり久保田に頼る馬淵に、久保田は「了解!」と楽しそうに続ける。
二人の足音が近付いてきた。
俺は、扉の前から動かなかった。
動けなかった。
動くつもりにもなれなかった。
足音が止み、目の前の扉が開く。
「話は終わった?」
頬を緩ませ、無理矢理笑みを浮かべた俺は言いながら目の前で驚いたような顔をする二人に笑いかけた。
なに一つ面白いことなんてなかったが、こうでもしないと自分を抑えることができなかった。
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