前編

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前編

久保田とは高校に上がってから知り合った。 持ち前の明るさとフレンドリーな性格のお陰か、男女ともに友達が多いやつだった。 久保田にとって、どこのグループにも属さずいつも一人でいた俺は変わって見えたのだろう。 高校一年の春。 久保田に話し掛けられるようになる。 正直、嬉しかった。 交友関係に関して消極的な俺にとって、積極的に話し掛けてきてくれる久保田の存在は酷く暖かいもので。 事あるごとに久保田に話し掛けられ、それに応えるようにたまにこちらから話し掛ける。 それを繰り返しているうちに、久保田と俺は周りから親友同士と呼ばれるような関係になっていた。 高校一年の秋。 いつも一人だった俺の周りにはいつの間にか人間が沢山いた。 久保田が自分の友人を紹介してくれたのだ。 久保田の友人なだけあって、皆いい奴ばっかだった。 顔を合わす度にくだらないことを喋って、笑って、毎日が楽しかった。 決してフレンドリーな性格をしている訳でもなく話術がある訳でもない俺の周りに人が集まる。 久保田に会わなければ、こんなことなかっただろう。 久保田のお陰だ。 久保田といたから、俺の性格は変わった。 久保田にとって俺は大勢の親友のうちの一人かもしれないが、俺にとって久保田は唯一の親友だ。 今の俺がいるのも久保田のお陰だろう。 久保田。 今の俺がいるのは久保田のお陰だ。 冬が過ぎ、春が来る。 俺達は二年生になった。 久保田とはクラスが違ったが、それでも俺の周りには多くの顔見知りがいたので前みたいに一人になるということはないだろう。 だけどやっぱり、久保田と別々のクラスになるのは寂しかった。 そんな俺に対し、久保田は「大袈裟なんだよ」とおかしそうに笑った。 俺は大袈裟なのだろうか。 俺に比べてあまり寂しそうじゃない久保田に少しだけ傷付いた。 でも、そうかもしれない。 久保田が大袈裟と言うのだから大袈裟なのだろう。 二年の夏。 体育祭やプール開きなど様々な行事があった。 去年は一緒にいた久保田は隣にいない。 体育祭は敵同士として盛り上がったが、やっぱり敵同士じゃ意味がない。 俺は久保田と一緒がよかった。 クラスが変わってから、久保田には沢山の新しい友達が出来ていた。 流石久保田と憧れる反面、ちょっと嫉妬したりもした。 それでも、久保田は俺に会いに来てくれる。 恐らく、今現在で一番久保田の隣にいるのは俺だろう。 その自信があったからこそ、俺は久保田のいない授業を我慢して聞くことができた。 その自信があったからこそ、俺は久保田が多くの友人に囲まれてても我慢できた。 優越感。 まともに友達すらいなかった俺に、人気者の親友が出来た。 久保田のついででも人気者扱いをされるようになったのが嬉しかった。 俺は、久保田が好きなのだろうか。 それとも、人気者の久保田の隣にいれる自分が可愛いのだろうか。 俺にはよくわからなかった。
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