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「大体そんな格好で彷徨いてたら誰だって体冷やしますよ、他に着るものないんですか」
そんな俺の心境を知ってか知らずか、水仕事をしながら尋ねてくる日生に俺は「んーちょっと待って」と言いながら近くの棚を漁ってみる。
すると、予備の体操服を何着か見つけた。
それを手にし、早速着用しながら俺は「体操服ならあるわ」と日生に返す。
「ならそれを着……ってそれ女子のじゃないですかっ」
「似合う?」
「え?いや、似合うとかそういうのではなく普通に男子の体操服は……」
「あるよ」
「じゃあそっち穿けばいいじゃないですか!」
相変わらずいい反応だ。
「いや憧れてたんだよね、この短パン。みてみて生足。俺すっげー足綺麗じゃね」女子の体操服を着た俺は言いながら日生の前でモデル立ちをする。
すると、目頭を押さえる日生は「見せないでください」と再び俺に背中を向けた。
あまりのレベルの高さに凡人の日生は圧倒されているのだろう。
なるべくサイズを大きいやつを選んだとはいえやはり女子のだ。肩回りがキツい。が、それを除けばそこら辺の女子より可愛い自信はある。
「触ってもいいよ?」言いながら日生の横に並べば、日生は「触りません」とそっぽ向いた。
「第一、いま俺は先輩の服を洗うのに忙しいんですよ」
ようやく水洗いを終えたらしい日生は言いながら水浸しの制服をぎゅっと絞る。
シンクにぼちゃぼちゃと水が落ちた。
「ったくノリ悪いな日生君は。そんなんだからモテないんだよ」
「どこをどうノれって言うんですか」
まとわりつく俺から逃げるようにシンクから離れた日生は相変わらず素っ気ない口調で即答する。
広げた制服を椅子に引っ掻け、ストーブの熱が当たるように置く日生の後ろ姿を見て俺はむっと頬を膨らませた。
そして、不意に側に置いていた自分の下着に気付く。七緒だか自分だかの精液で汚れて穿くのを諦めたものだ。
「あ、そうだこれ」
それを手にした俺は、後片付けをするために再びシンクに戻る日生に差し出した。
「ついでに洗っておいて」
なにがなんだかわからないままそれを受け取った日生は下着を広げ、カピカピになったそれを見てぎょっと目を丸くさせる。
「これ……」男の日生はその汚れがなんなのか即座に判断出来たようだ。
呆れたようにこちらを見る日生に俺はにっこり微笑む。
「七緒の精子付き」
「……っ」
そう笑いながら言った瞬間、日生の表情が険しくなった。
元々隠しきれていなかった俺に対する日生の嫌悪感が一層強くなり、周りの空気が張り詰めるのがわかる。
そんな日生と暫く見詰め合い、痺れを切らした俺は「嘘」と笑顔のまま呟いた。
「日生君顔怖いよ」
「……先輩って性格悪いですよね」
「日生君見てると虐めたくなるんだよ」
嘘ではない。他人を痛め付けて興奮するような性癖は持ち合わせていないが、不思議と日生の困った顔を見るのは嫌いではなかった。
そんな俺に対し、「やめてください」と不愉快そうな顔をする日生は言いながら水道の蛇口を捻る。
どうやら洗ってくれるようだ。日生のお節介は誰にでも発動するものらしい。
嫌そうな顔をしてなんだかんだ言いつつ精液に汚れた下着を水洗いする日生には驚いた。これでは七緒がああなるのも無理もない。
そして、暫く真面目にざぶざぶ俺のパンツを洗っていた日生だったがなにか重大なことに気付いたようだ。
いきなりハッと動きを止める日生は「……っていうか、ここに下着があるってことはもしかして」と恐る恐るこちらに目を向ける。なにを言い出すかと思えばそんな今さらな。
「もちろん、ノーパンだけど」
言いながらぐいっとゴムを引っ張り穿いていた短パンずり下ろせば、人の下腹部に目を向けた日生は顎が外れたような顔をする。
「じ、直に穿いたんですか……っ!」
「だってこれしかないし」
「他の子も穿くんですよっ」
「その子超ラッキーじゃん」
「ふざけないでください。次に使う他の人のことも考えてくださいよ、それに衛生上悪いですよノーパンはっ」
じわじわと顔を赤くさせる日生はそうガミガミと説教し始めた。
素直に眼福眼福と涎垂らして喜べばいいものを紛らすように叱る日生に俺は「わかったわかった」と適当にあしらいながら短パンを穿き直す。
「じゃあ日生君のパンツちょうだいよ」
「嫌です」
そして、そう上目遣いでねだれば即答された。
こいつといい七緒といい先輩に対してのあれこれが身に付いていないようだ。この帰宅部め。俺もだけど。
「オムツ貰ったらいいじゃないですか」
「なに、日生君も赤ちゃんプレイ好きなわけ?」
「なんでそうなるんですか」
「って、も?」どうやら俺の言葉が引っ掛かったようだ。
そう不思議そうな顔をする日生に「やっぱりそーいうところは七緒と似てるんだね」と笑いかければ日生は顔を強張らせ、ふいとそっぽ向く。
「……っ別にそういうのが好きとか一言も言ってませんから」
この反応、もしかして図星か。
思いながら日生を見詰めていると気を紛らすようにわざとらしくゴホンと咳払いをした日生は「とにかく!」と声をあげる。
「せめて下は脱いでください」
そう言って日生は俺を睨んだ。
相変わらずの侮蔑するようなキツい眼差しはなかなかそそられる。
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