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古賀家前にて。
門の前、取り付けられた呼び鈴を押せばピーンポーンと間抜けな音がする。が、反応はない。
「……」
まあこのくらいのことは想定内だし残念ながらよくあることなので今さら虚しくはならない。
病人の愛斗が家にいることくらいわかっている。呼び鈴に手を掛けた俺はそのままピピピピピピと呼び鈴を連打した。すると、あら不思議。
「うっせえ!」
勢いよく扉が開き、鬼のような形相で飛び出してくる愛斗。
額に冷却シートを貼り、髪を結んだラフな服装という愛斗は完全オフモードで。
なんだかそれが新鮮で、俺は「おはよー愛斗」と笑いながら手を振る。が、愛斗は挨拶を返す代わりに不快そうに眉を潜めた。
「連打止めろよ。うぜえんだよ」
「愛斗が出ないからじゃん」
いつもに増して機嫌が悪そうな愛斗は舌打ちをし、そのまま扉に引っ込む。
どうやら追い出す気力もないようだ。これはなかなか重症だ。なんて思いつつ、俺は「おじゃましまーす」と愛斗の後を追って玄関に上がった。
古賀家、玄関にて。
玄関に愛斗の靴しかないことに気付いた俺は「一人?親は?」と声をかける。
すると、俺に背中を向けたまま愛斗は「仕事」とぶっきらぼうに答えてくれた。
「飯は?」
「食った」
「えーやることねーじゃん」
看病する気満々だった俺に対し、愛斗は「なくて良いんだよ」と素っ気なく吐き捨てる。
遠回しになにもするなと言っているようだ。
これは『お前はなにもしないで俺の横にいるだけでいいんだよ』という一種のプロポーズとして受け取っていいのだろうか。
なんて愛斗の言葉を都合のいいようひん曲げて悦に浸っていると、不意にこちらを振り返った愛斗が「つーかくせえんだけど」と睨んでくる。
「うわ、まじで。洗ったのに」
「こっち近付くな」
「やだ」
「じゃあ帰れ」
嫌がる愛斗を無視してなんとか歩み寄ろうとするがこっち向こうともしない愛斗に挫けた俺は「風呂入ってくる」と言って愛斗んちのそのまま浴槽へと向かった。
もしかしたら風邪で鼻が敏感になってるのか、いや普通詰まるよなと疑問に思う反面詰まってる前提で匂うということは相当雑巾臭いというわけだ。
もしかしたらイカの匂いも混ざってるのかもしれない。
あくまでも病人である愛斗の鼻のことを思ったらいても立ってもいられず、「自分の家でやれよ」という愛斗の怒鳴り声を聞き流しシャワーを浴びることにした。
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