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そして、多治見たちが見えなくなるくらいのところまで引き摺られたときだった。
場所は変わらず住宅街ど真ん中。
ようやく相馬は俺から手を離し、俺はずきずきと痛む脇を押さえながらそのまますたすたと歩いていく相馬を睨み付ける。
「相馬てめー」
「なんだよ、ぷりぷり怒んなって」
キャリーバックかなにかその類いかのように引き摺られて怒らないやつがいないわけないだろ。
それを分かってか、やっぱり他人事のように笑う相馬に対し多治見への遣りきれない苛つきの矛先を向けてしまいそうになったがこいつに当たっても仕方がない。しかし、文句の一つや二つ言わなければ気が済まない。
「多治見には色々用あったのに」
「残念、俺もお前に用があるんだよ」
即答だった。言われてみれば、この時間帯にこんな場所で会うなんてたまたま通り掛かったとは言い難い。
用があるなら電話すればいいものを。そう思いかけて、自分の携帯電話が行方不明になっていたことを思い出す。
一応、話を聞いておいた方がいいかもしれない。慌てて相馬の後を追いかけながら俺は「なんだよ、用って」と単刀直入に尋ねることにした。
「此花先輩が木江連れて来いって」
「此花が?」
まさかここで此花の名前が出てくるとは思わず、目を丸くする。
そんな俺に対し、小さく頷く相馬は「なんか頼んでたんだろ?携帯がどうとか言ってたぞ」と続けた。
その言葉に、今朝の此花とのやり取りを思い出す。そう言えば、此花に携帯捜索のお願いをしていたんだっけか。
「でも、なんで相馬が」
「先輩が探しても見付からないって俺らに言ってきて、葵衣ちゃんから古賀んち行ってるって聞いたからこっち来たわけ」
「お前もご苦労様だな」
「まあ俺、命令されるの嫌いじゃないし」
マゾかよ。
しかしまあ、此花に言われただけで部活ほったらかしてここまで来たということか。
部活命というやつではないと知っていたが、よくもまあここまですると感心せずにはいられない。
お陰で邪魔されたわけだが。
「んで、今どこ行ってんのこれ」
ごちゃごちゃごちゃごちゃ話している間に結構遠くまで来ていたようだ。
住宅街を出て、表通りにある商店街。
ちらほら人気の出てきたそこを見渡しながら尋ねれば、こちらに目を向けた相馬は「先輩と待ち合わせの場所」とだけ続け、そして、先になにか見付けたようだ。
「……っと、ここだ」
言いながら、とある店の駐車場の前で足を止める。
つられるようにして慌ててその店に目を向けた俺は、思わず苦笑を洩らした。
「またファミレスかよ」
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