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『庵原』と掘られたネームプレートが掲げられた見慣れた門を潜り、家の玄関までやってくる。
「ミチザネ、ここって……」
「いいから上がれよ」
「でも、もしここまで追い掛けられたら」
「その時はその時だろ。つーか、朝堂々冷蔵庫漁ってたやつが今更何言ってんだよ」
「それもそうだよな!んじゃ、お邪魔します!」
今までのしおらしさはどこに行ったのか、俺の許可を得てあっさりと掌返すクロウに突っ込みそうになったが、誘ったのは俺だ。
玄関の前で下ろして貰い、解錠した扉からクロウを上げた。
幸い、長政はまだ帰ってきていないようだ。
お互い泥だらけのびしょ濡れなだけに、煩く言うやつがいないことにほっとする。
「そういや、今朝お前どうやって上がったわけ?」
履き潰した靴を脱ぎ、ついでに靴下も脱いだ。
ところどころ赤黒く汚れた靴下についた染みは普通に考えてあれだろう、雨で流されていたのか全く気にしていなかったが、流血もしていたらしい。
通りで痛いわけだ。
そんな俺をはらはらと見守っていたクロウは俺の問い掛けに「窓から」とだけ答える。
「窓?」
「2階の窓が開いてたから屋根から攀じ登って、そんで机の上に服あったから借りたんだよ」
もしかして長政の部屋か。
だから長政の体操着着ていたのか、と納得してしまったが、そもそもどうやって2階の窓までやって来たのかという疑問が沸いて出てきた。
これはもう、触れないほうが良いだろう。考えたくねえ。
「それにしても人には戸締まり戸締まりうるせーくせに、あいつ……」
「なあ、ミチザネ、もう歩いて大丈夫なのか?」
「いてぇよ、わりと。……おい、なにやってんだよ」
無人のリビング。
壁を伝うようにしてやってきた俺が照明をつけたとき、ぱたぱたとやってきたクロウはいきなり人んちの棚を漁り始める。
まさかまた腹減ったとか言い出さないだろうな、と神経尖らせていてると。
「なんかねーかなって思って、包帯とかさ、そういうの」
もしかして、俺のためにか。
少しだけ驚いたが、不思議と悪い気はしなかった。
それでも少々非常識なところはあるが、根っからの悪いやつではないのだろう。
さっきの姿を見てもそんなことを思ってしまう俺の危機感がなさ過ぎるのか、それとも無理やり思い込もうとしているのか。
自分でもわからないが、こいつの脳天気な人柄のお陰もあってから恐怖はなかった。
「……そこの棚の上から二番目」
「……あっ、あった。ミチザネ、足貸して!」
「俺の足は取り外せねえから屈んでくれ」
「おう!任せとけ!」
全く気が気ではないが、任せる他ない。
言われるがまま、濡れた上着を脱いだ俺はソファーに座った。
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