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朝からドタバタしたお陰で全く授業が頭に入らないまま迎える昼休み。
「っくそ、なんなんだよあいつ……」
あの脳天気な泥棒男のことを思い出す度にそのことばかり考えてしまい、余計、苛々する。
そんな中、教室の扉が開いた。
顔を覗かせたのは長政だった。
近くに居た女子達がきゃあきゃあはしゃぎ始めたからすぐにわかった。
「兄貴、いる?」
「なんだよ」
「今日委員会あるから鍵渡しとく」
「……あー、わかった」
小さい頃から、両親が家にいないことが多かった俺たちは必然のように鍵を持ち歩くような子供になっていて。
今では、よく鍵を無くす俺の代わりに長政が鍵を管理するようになっている為、たまにこうして遅くなる時は律儀に俺に渡しに来るのだ。
長政曰く『面倒だが、鍵を作り直すよりましだ』だそうだ。威厳もクソもありゃしない。
「じゃ、俺戻るから」
「頑張るのはいいけど、あんま無理し過ぎんなよ」
立ち去り際、その後ろ姿に声を掛ければ、「余計なお世話だっつの」と尖った声が返ってきた。
ほんっと、可愛くねえ。誰に似たんだ。俺か。
鍵を仕舞い、そろそろ俺も昼飯食いに行こうかと軽く伸びをしたときだった。
『ちょっとそこの君、待ちなさい!』
廊下の外、喧しい足音とともに聞こえてくる教師の声。
うるせえな、なんて思いながらも無視してそのまま教室を出ていこうとしたとき。
『っぶねえな、おい!』
廊下の方から長政の声が聞こえてすぐ、教室の扉が開いた。
そして、
「見付けた……!」
「っ!お前……!」
そこにいたのは、今朝の眼帯の男だ。
さっきまで至ってまともだったはずのよれよれのジャージは汚れ、見るからにぼろぼろですといった悲惨なことになっていて。
明らかに部外者である男の侵入に、ざわめく教室の中。
構わず俺の目の前までやってきたそいつは赤くなった片目で俺を睨みつける。
「よくさっきは見捨ててくれたな!お陰で、お陰で俺の体が汚れちゃっただろうが!」
「汚……?!それにそれは体じゃなくて服だろ……っじゃなくて、あれはあんたの自業自得だろうが!つーかなにしに来たんだよ!」
「決まってるだろ!あんたに会いに来た!」
確かに、そうなのだろう。力也先輩に売られ、自分のことを棚に上げて俺に対して怒っているであろうこいつは俺に会いに来たのは一目瞭然で。
ただ、ただ少し、言葉の少なさとこの状況が悪かった。
汚されただの云々喚き散らす涙目の男に当然ながらクラス中の視線は俺に向けられるわけで。
泣きたいのはこっちだ。
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