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文字通り、言葉が出ない。
なにか言い返さなければならないと頭では理解していたが、どうやら思っていたよりも俺はこの男の登場に動揺しているらしい。
そんなことも露知らず、男の怒りは爆発するばかりで。
「あんたのせいでこんな体になってしまったんだから、責任取ってもらうからな!」
明らかに教室の空気が凍り付くのがわかった。
当たり前だ、普段から特に目立たないようなやつがいきなり見知らぬ男に意味深な言葉で罵られていたらなんなんだこれはとなるはずだ。今まさに俺がそれだ。
とにかく、とにかく、このままこいつをのさばらせてはおけない。
それだけはよくわかった。
「お、おおっ?やるか?……んぐっ!」
ファインティングポーズで構える男の口を塞ぎ、俺はそのまま押し出すような形で教室を後にした。
廊下にはこいつを追い掛けてきたらしい教師がいたが、男を捕まえた俺の剣幕からして何か察したようだ。出し掛けた手を無言で引っ込めてくれる。
「っふが、ちょ、苦し……」
「いいからこっち来い」
「んんっ!んー!」
再度男の口を塞いだ俺は、そのまま野次馬をかき分けるように教室から離れる。
とにかく、一度きちんと話さなければならない。また教室に押し掛けられたらたまったものではない。
ひとまず人気のない場所を目指して、俺は足早に歩き出した。
「あの服って……兄貴の……?」
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