PROLOGUE

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目を覚ましたら見覚えのない場所にいた。 そもそも、見覚えもなにもよく考えてみるとなにも思い出せない状況で、ここがどこなのかは勿論、どうしてここに居るのか、そして自分が何者かのか。全て思い出せない状況で。 だけど、違和感だけは異様なほど感じた。 それが何に対するものなのか分からないまま、辺りを見渡す。 簡易ベッドの上、寝かされていた俺の躯には無数のチューブが繋がれていて。 その先には袋の中に入った透明の液体が吊るされるようにしてぶら下がっている。 瞬間、全身に震えるような寒気が走る。 自分の中に得体の知れないものが現在進行形で流し込まれていると思っただけで虫唾が走り、堪らず腕や肩に刺さったチューブを引き抜いた。 それと同時に、部屋の扉が開く。 そこには、数人の白衣の男たちが入ってくる。 「おお、ようやくお目覚めか。……長がったなぁ?」 白衣たちの先頭に立つ茶髪の男は、白衣を羽織ってはいるものの医者のようにも科学者のようにも見えない。 ただ、こちらを見る垂れ目がちなその視線がひたすら不快だった。 ――逃げろ。 心の奥、声が聞こえてくる。 本能か、それとも別のなにかか。 考えることも儘らない頭の中、その声に従って俺はベッドから起き上がり、そして走りだす。 白衣たちの正面。 向かってくる俺に驚いた顔をする目の前の白衣たちを薙ぎ払い、唯一の扉へと走り抜ける。 不思議と躊躇はなかった。 簡単に倒れる白衣たちを目尻に、俺は部屋から飛び出した。 「あっ、おい!」 「追いかけろ!絶対に逃すんじゃねえぞ!」 背後から聞こえてくる慌てた男たちの怒号はどんどん遠くなっていく。 質素で無駄のない通路は酷く絡み合うように複雑な作りになっているようだ。 随分と長い間眠っていたような気がするが、それすらも錯覚だと思わせるくらい体は軽かった。 寧ろ、この時を待ち望んでいたかのような。 そんな気すらする。
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