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鼓膜を劈くのは天井のスピーカーから流れる警報。
見渡す限りの無機質な灰色の壁は迷路のようで。
後方、大勢の足音が近付いてくるのが聞こえてきた。
とにかく、逃げよう。
どこか、遠くへ。
取り敢えず、この薬品臭い場所から脱出しないと。
そう思った矢先、行き止まり。
「ありゃりゃ……」
思わず足を止め、背後を振り返る。
人影はないが、近付いてくる足音からして追い付かれるのは時間の問題だろう。
視線を泳がせたとき、天井近く、小さな格子を見付けた。
恐らく通気口かなにかだろう。
あそこを辿れば、外へ……。
考えるより先に、格子の下へとそこら辺にあった棚や机を積み上げる。
その物音まで気遣っている暇はない。
どんどんと積み上げ、なんとか天井の格子まで辿り着けるであろう歪な階段を作くりあげたときだった。
「おいっ!見つけたぞ!」
「早く捕まえろ!」
背後から聞こえてきた声にビックリしたが、構わず俺は階段を駆け上がる。
格子を掴むが、しっかりと嵌め込まれたそれはちょっとやそっとじゃ外れるわけがなくて。
格子を掴み、無機物相手に奮闘する俺に構わず、数人の白衣を着た男たちが後に続いてくる。
背後から伸びてくる無数の手を避けるように足を払い、格子にぶら下がった。
腕に全体重を掛けた瞬間、ガコリという音とともに手の中のそれは軽くなっていて。
――外れた。
そう喜ぶのも束の間。
格子以外支えを持っていなかった俺の視界は大きく揺れ、体が、頭が、後方へと傾いていく。
崩れる階段。
下から白衣達の悲鳴が聞こえてきた。
「おい、崩れてるぞ!」
ガラガラと足元から崩れていく感覚に目が回りそうだった。
でも、ああ、なんかこれ、この感覚、嫌いではない。
ガラガラと積み上げた階段だったものが崩れていく。
間一髪、近くにあった机の足を掴み、そのまま飛び乗る。
だけど、だからといって雪崩を止められるはずもなく。
「うわあああっ!」
どうやら下の白衣たちは今の階段崩壊に巻き込まれたらしい。
下方から聞こえていた複数の悲鳴は物を叩きつけるような音に掻き消される。
そして、ようやく雪崩が止んだ時。
立ち上がった俺は、机や棚の下敷きになって白目剥いてる白衣たちに心の中で合掌し、崩れた階段の上にまた階段を作り上げる。
そして、それが崩れる前に今度こそ通気口へと飛び込んだ。
<font size="5"><font color="#5500AA">PROLOGUE.
『逃走劇は合図もなく開始される』</font></font>
出口かと思って飛び込んだ先に、更なる迷宮が控えているなんて誰が思っていたのだろうか。
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