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随分と懐かしい夢を見た。
小さい頃は毎晩見ていた夢だ。
もう随分経ったからかヒーローの顔はどこか靄がかって思い出せないが、それでもあの時の興奮は今でも思い出せる。
枕元の時計を確認する。まだあと三十分くらいは寝れそうだな。
なんて思いながら再び布団に潜り込んだその時だった。
勢い良く部屋の扉が開いた。
「おい、兄貴、兄貴!俺の体操着ねーんだけど!」
現れたのは、今年から高校生になる弟の長政だ。
小さい頃の病弱で泣き虫な姿はどこにいったのか、立派に育った今では先輩女子たちから付け狙われてるモテ男だ。本人にはその気は全くないらしいが。嫌味か。
「って寝るなよ!」
バレたか。
「いや知らねーよお前の体操着とか……」
「ちゃんと見ろって、俺一限体育なんだけど!」
「知らねえってば、つーか俺学校置いたまんまだし」
「きったねえな、ちゃんと持って帰ってこいよ」
「はいはい」
「って、じゃあ俺の体操着は?!」
青褪める長政に「だから知らねえって」と念を押す。
だって本当に知らないのだからそれ以外言いようがないのだ。ベッドから動いて探すのが面倒というのもあるけど。
利口な弟はこのままでは埓があかないと判断したようだ。
諦めるように溜息を吐いた。
「あーっ、くそ、保健室で借りるしかないじゃん。最悪……行ってきます!」
「……」
「いっ、て、き、ま、す!」
「……いってらっしゃい」
俺の言葉を聞いて、ようやく部屋を出ていった長政。
本当、嵐のような奴だな。
学校ではクールで真面目で頭がよくて王子様みたい~と女子たちに影で囁かれているようだが、そいつらが家での長政の姿を見たらどんな反応に出るかが気になるな。
確かに外面はいいが、その分兄である俺への扱いは雑なのだ。女子達には優しいくせに。
いやまあ長政に優しくされてもそれはそれで気味悪いけどな。
「ふぁ……眠」
せっかく二度寝しようとしたところを長政に邪魔され、すっかり覚醒してしまった脳味噌では眠りにつけそうにはない。
面倒だけど、学校へ行く準備するか。
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