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「……とにかく、今回は見逃してやるからそれ食ったら体操着脱いでさっさと出ていってくれ」
この男と一緒にいるとなんだか酷く疲れたようだ。
突っ込む気力もなくなって、そう溜息混じりに手を触れば今度は男の方が驚いたような顔をした。
「……いいのか?」
「あ?」
「だってほら、警察に突き出したりさぁ……」
「そんな面倒なことしねーよ」
確かに本来ならばそうするべきなのだろうが、あいにく面倒事は避けたかった。
それに、泥棒というのが目の前にいる脳天気なやつだということもあるのだろう。何故だか通報する気にもなれなくて。
「危機感ないんだな」
俺も、そう思う。
「助けてもらっといて失礼だよな、あんた」
「いや、うそうそ!ありがとう、恩に着るよ。あ、これごちそーさん。旨かった!」
勝手に食っておいてご馳走様、ね。
つくづく変な男だ。逃げようとも口止めしようともしないで。危機感がないのはどちらだろうか、と立ち上がる男を眺めていると。
「……あ」
長政の体操服を脱ごうとウエストに手を掛けた男は思い出したように声を上げた。
「今度はなんだよ」
「なにか服、借りてもいい?」
「……」
サイズのあっていない他人の体操着はよくても流石に全裸はダメだとわかっているらしい。
それだけでもまあ、良いほうだろう。
俺は捨てようか迷っていたよれよれのジャージとTシャツを男に渡した。
それに着替えた男は、去り際まで「ありがとう!」と酷く感動していたのを思い出しながら、俺も着替えるそとにした。
なんだか、気分がいい、
朝方懐かしい夢を見たのもあって、余計あれだ。少しはあの日の約束を果たせたのだろうか。
人助けをするのも悪くないな、なんてさながらエンディング気分だった俺だったが、実際、ここで終わっていたらと今でも思う。
ここで終わっていたら、俺もあいつも他の奴らも、もう少しましではなかったのだろうかと。
しかし、奇妙なことに厄介な縁というのは案外切れないもののようだ。
<font size="5"><font color="#FF5500"><font color="#FF5500">episode.1
成り損ないと欠陥ヒーロー</font></font></font>
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